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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

産業も観光資源

学術的考察重ね選別

近畿産業考古学会会長・城下荘平氏

水路閣へ続く疏水。側道は回廊として活用できる

 昨年6月、約25年にわたって見学会や講演会などの活動を行ってきた産業考古学会関西支部を発展的に解消し、近畿産業考古学会として再出発した。近畿地方の「産業遺産」について、より地域に密着して研究し、提言していくのが、学会の狙いだ。

 産業遺跡や産業文化財など、産業遺産への認識はまだ必ずしも高くない。そういった中、産業遺産を観光資源として活用しながら保存を図る「産業観光」という考え方や活動が、1970年代から英国で始まり、最近は日本でも普及しつつある。私が学会誌「近畿の産業遺産」の創刊号に書いた論文「京都・蹴上付近の琵琶湖疏水産業観光回廊の設定」も、産業遺産である琵琶湖疏水を観光資源として生かそうという趣旨だ。

 よく知られているように、1890年に完成した琵琶湖疏水は、京都市民への水の供給や水力発電による電気の供給、舟による物資の運搬に大きな役割を果たしてきた。わが国の近代産業黎明(れいめい)期の技術を示す代表的な産業遺産といえる。

 なかでも、蹴上付近には、インクラインや水路閣、水力発電所(関西電力蹴上発電所)、蹴上浄水場、琵琶湖疏水記念館と、疏水関連の施設が集中している。それらの施設を回廊でつなぎ、観光客に巡ってもらうことで疏水への関心が高まることが期待される。

 施設のうち、浄水場は現在、ツツジシーズンの数日以外は公開されていない。飲料水は生命に直結しているので、常時公開するには安全性への配慮が特に必要だ。発電所も現在は公開されていない。構内にある1912年しゅん工のれんが建物は老朽化しており、公開するのなら相当な補強が必要だろう。具体的な回廊の設定では、現在ある小道を整備して利用すれば、大規模な工事は行わずに済む。

 資源のとぼしい日本は、これからも科学技術でしか生き残れないことは論をまたないが、その一方で、若者の科学技術離れが進んでいる。観光回廊は、毎年数多く京都を訪れる修学旅行生に対して、日本の技術史を教育する格好の場にもなるにちがいない。

 実は論文を書いた後、京都商工会議所などが琵琶湖疏水を活用した広域産業観光を計画していることを知った。驚くとともに同じ考えの人たちが多くいることが頼もしかった。

 京都は伝統産業に加え、明治以降の近代産業でも中心的な役割を果たしてきた歴史があり、貴重な産業遺産は数多い。琵琶湖疏水にとどまらず、種々の産業遺産が観光資源として活用できるはずだ。イギリスなどのように、文化財建物に人が住んで管理し、機械類も動かしながら保存する「動態保存」も積極的に進めれば、観光客の関心もいっそう高まる。

 一方で、産業遺産の保存には多額の経費が必要だ。すべてを保存することは現実にはできず、本当に保存する価値のある産業遺産を選別せざるをえない。その場合の判断力、目利きの力は、地道な学術的考察を重ねるなかでこそ、得られるものと思っている。学会誌「近畿の産業遺産」などを通じ、そういった力をつける面でも貢献していきたい。

しろした・そうへい1943年京都市生まれ。大阪工業大工学部卒。大阪市立大大学院工学研究科修了。京都大工学部助手を経て京大総合博物館助教授(技術史)

[京都新聞 2006年12月7日掲載]