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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

環境観光

景観要素の分断防げ

京都嵯峨芸術大教授・真板昭夫氏

17年ぶりに生育した大沢池のハス(2006年7月、京都市右京区嵯峨)

 嵯峨を代表する庭池「大沢池」が、大覚寺や造園家、生態学や社会学、観光学などの研究者、嵯峨御流の華道家、学生、市民からなる「草魚バスターズ」により17年ぶりによみがえった。赤いハスの花が池面を飾り、池の縁がヒシの白い花で彩られた。水草が休息の場となり、水鳥が渡ってくるようにもなった。

 驚いたことがある。ヒシをえさとするヒシハムシを食べようと多くのツバメが飛来し、初夏にはすてきな池の姿を描きだしてくれたのである。人、造築物、生き物、自然がより密接な系となって生み出していく多様な風景の出現が、観光客のみならず、写真を撮る人、写生する人、水鳥の声を聞きながら散歩する親子連れなど、さまざまな人々を引き寄せている。

 大沢池は、なぜ荒れていたのか。観月祭には月が映る広大な池面が必要だ。しかし水草の繁茂でそれが困難となり、その除去にソウギョを投入したからである。水草はたちまち食い尽くされ何一つない池面が誕生した。風情は消え、ただの池となり、観月祭の時だけ観光客が訪れる場所と化してしまったのである。

 大沢池に限らず、京都の風景の魅力は特定の期間に限られたものではない。万物が一体となり多様な魅力を生み出し合っているところにある。このことが、いつ行っても新しい京都に触れ合えるという京都観光最大の魅力になっている。

 ところが近年、この魅力が危機的状況を迎えつつあるように思える。原因は、観光客の大量受け入れによる施設ごとの最適化環境整備と開発、また縦割り行政のちぐはぐさが京都の価値を半減させているからである。ちょうど大沢池が観月祭のためソウギョを導入したことで景観要素が分断されていった現象と似ている。このままでは、そのうち人々の記憶から京都の存在は消え去り、「そうだ 京都 行こう」から「そうだ あのお寺へ行こう」に代わってしまうに違いない。国際観光都市京都を打ち出していくには、個々の観光資源の強調だけではなく、「美しい京都」の主張が必要である。参考に「草魚バスターズ」の続きの一端を記したい。

 大沢池復元に向けて動いた歯車はさらにさまざまな人を動かした。風景を花で表現する景色生け「庭湖の景」の元となった大沢池の保全活動を通じて嵯峨御流華道家は、日本各地の風景を守ってこそ京都全体の風景を守るすそ野を広げていくことになると決起し、華道家行動宣言「日本を生ける」を京都から発信した。来秋には全国の「守りたい原風景」を生け花で表し、その必要性を訴える大会を京都駅で開くべく準備中という。

 京都観光の資源保全には、他分野にまたがる人々が知恵を出し磨きあげていく「観光デザイン機構」のような横断的な場が必要である。また、国際観光都市京都を世界に打ち出すには日本の文化的課題をテーマとした京都発の活動を全国の人々の参加によって強化し、「観光都市としての文明の磁力」を高める必要がある。京都は日本文化の源泉なのだから。

まいた・あきお1949年新潟県生まれ。東京農業大農学科卒。自然環境研究センター理事を経て2001年から現職。東京大で農学博士。日本エコツーリズム協会理事。専門はエコツーリズム論。著書に「観光デザイン学の創造」ほか。

[京都新聞 2006年12月21日掲載]