Kyoto Shimbun 1997.5.20 <リポート・信楽高原鉄道事故の真相>

赤信号で走った列車<6> 食い違い

 「伝えた」「聞かぬ」優先テコ設置 今も法廷論争

 行き違い場所の小野谷信号場で、JR世界陶芸祭号の下り出発信号が「赤」にならなかった理由は、信号設備工事会社から派遣された係長が信楽駅構内の電気設備の回線を誤操作した可能性が高いとされ、信楽高原鉄道の専門家不在が浮き彫りになった。

 では、大惨事の発端となった信楽駅の上り出発信号はなぜ、「青」にならず「赤」になってしまったのか。

 滋賀県警の捜査は、草津線などの運行や貴生川駅の信号を扱うJR亀山CTCセンター(三重県亀山市)に設置されている遠隔操作の「方向優先テコ」に向いた。

 方向優先テコは、草津線から乗り入れるJR列車の到着が遅れた場合に、下り方向の走行を優先し、小野谷信号場の上り信号を赤にし続け、上り列車を信号場に停車させておくことができる。

 事故後、この方向優先テコの設置をめぐって、信楽高原鉄道は「知らされていなかった」と主張。一方、JR側は「連絡した」と話し、双方の言い分が食い違っていることが分かった。

 世界陶芸祭の開催に伴い、高原鉄道は信楽駅と小野谷信号場、JRは貴生川駅と亀山CTCセンターの信号システムの工事を受け持った。工事はそれぞれ別々の業者に発注された。

方向優先テコが設置されたJR西日
本亀山CTCセンターが入っている
建物(三重県亀山市)
 事故の前年の九〇年九月、信号システム導入について、信楽高原鉄道とJRの打ち合わせ会議が大阪のJR西日本本社で開かれた。

 信楽高原鉄道は山本長生施設課長、中村裕昭業務課長、下請けの信号設備工事会社、基本設計を担当する会社の部長、JRは電気部信号通信課、運輸部管理課、亀山CTCセンターなどの担当者が出席した。

 「行き違い場所の小野谷信号場の上り出発信号を抑止(赤)にする機能が欲しい」。JR西日本側はこう要望した。

 JR世界陶芸祭号など貴生川発の下り列車が遅れた場合、信楽発の上り列車が先に貴生川駅に到着すると、高原鉄道ばかりでなく、草津線のダイヤにも影響するためだ。

 JRの要望に対し、高原鉄道の下請け設計会社の部長は「小野谷信号場は高原鉄道の設備なので、JRさんが扱うのはおかしいんとちがいますか」と言ったという。会議中、信号に詳しくない信楽高原鉄道の二人の課長からはあまり発言がなかったという。

 会議から数日後、高原鉄道側は、信楽駅内に方向優先テコと同じ作用をする「抑止ボタン」を設置する図面案をJRに送った。

 図面を見たJR側は「この案は具合が悪い。JR側で操作できる方がベター」と、内部で方向優先テコの設置を決め、高原鉄道に連絡することにした。

 JRの担当者は「(設計会社部長に)電話をし、方向優先テコを設けるので、抑止ボタンはいらないと伝えた記憶がある。(電話の相手は)信号設備工事会社の部長だったかもしれない」としている。

 しかし、高原鉄道側の設計会社部長は、電話は受けていないという。信号設備工事会社部長も「JRから抑止ボタンを取って下さいとはいわれたが、方向優先テコをつける話は聞いていない」と証言している。

 「言った」「聞いていない」。方向優先テコの設置の経過をめぐって、いまも双方が真っ向うから裁判で争っている。

 さらに捜査で、JRと連絡をとらずに、信楽高原鉄道が別の信号工事をしていたことが分かった。この工事が、方向優先テコを含んだ信号システムを変化させ、信楽駅の信号を「赤」にし、事故を誘発していく。


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