豊かな緑の恵み 真昆布

photo
昆布のトップブランド、「白口浜」は七月から養殖、祇園祭とともに天然昆布採りにはいる(南茅部町尾札部)
 京都の昆布店で「山だし」昆布の表示を見かけた。利尻、日高、羅臼の産地銘柄の横で無造作に山だしの名前がついている。しかし、もともとは真昆布を指した呼び方だった。

 江戸時代になり、昆布産地が函館・宇賀海岸から駒ヶ岳の東、噴火湾の海岸へ移動、この立地が山だしの名前と関係する。

 函館駅から観光客でにぎわうトラピスチヌ修道院前を通過すると、バスの客はほとんどいなくなる。

 道は山越え。バスで一時間余、距離にすれば三十四キロの道。かつて真昆布は一日がかりで山道を函館へ運ばれた。

 山だし昆布の名称の始まりである。

 山越えだから山だしなのか、海からあげた昆布をそのまま干して出荷するヤマダシ姿の名称かは、地元でも意見は分かれ、両方だろうというのが通説だ。

 真昆布は室蘭から渡島半島の最南端、恵山岬まで分布している。最高級品の白口浜は、南茅部町を中心にした三十キロの海岸で採れる昆布をさしている。昆布の肉質部分の切り口がクリーム色だから白口、黒口浜は恵山周辺が産地になり、切り口はもえぎ色のため黒口に分類され、品質にも違いが生じるから不思議だ。

photo
尾札部浜には三十もの小さな川が流れ込み、良質の昆布が育つ
 山と川、海と昆布はつながっている。白口浜の中でも別格の尾札部、川汲(かっくみ)は、なだらかな深い山、そこから三十ほどの渓流が海ヘ流れ込んでいる。

 「山の木を保護、伐採は組合の許可がいる。だからうちの山は緑が強いですよ。ナラ、カシがいい。山と川、海は紛れもなく三点セットになっている。白口昆布はこの三点セットでできた」と、飯田満南茅部町長は胸を張る。

 浜に立ってみると、山、川、海、昆布の関係が良くわかる。海岸沿いの川の水と海水が交じり合う岩場一帯が真昆布の生育環境になっている。成育には光りが欠かせない。深い海なら光りが届かず、細い、背の高い昆布、遠浅の白口浜は幅広の昆布が育つ。

 尾札部漁協での昆布談義に加えてもらった。尾札部は昆布を運んだ北前船の関係か、石川県出身が多い。能登がルーツの下池徹さん(65)は「今年は五月から天候がいいから、よう育っている。平成九年が豊漁年だったが、それに近い。ここは冬の間、栄養豊富な親潮が入り込み、昆布に養分を置いていく。春からは対馬暖流が流れ込む。これが透明度も高い。そこへ雪どけ水が加わり、最高の条件になる」と、環境の良さをあげる。

photo
「今年の昆布はいいよ」と、集まれば昆布談義に花が咲く
 夏になると、一家あげて昆布採りの船にのった。昆布は地元でもめったに口にしないが、口がさびしくなると、昆布をなめた。甘い。塩辛い海から揚がる昆布の甘さは、驚きだった。

 天然昆布の収穫が年々、減少している。尾札部も例外でない。いまや養殖と天然は七対三。養殖を奨励した町にとって天然昆布をいかに守っていくかが町の課題に変わった。

 白口浜の沖には養殖昆布の位置を示すブイが浮かんでいる。夏の昆布採りは、まず七月最初の養殖から始まり、土用のころ、天然昆布になる。祇園祭、天神祭の季節が旬にあたる。

 養殖と天然が産地で交じり合うの避けるため、養殖と天然の採取の区別は、船溜まりからつけている。

 拾いものといって打ち上げられる昆布の採取者も決まっており、勝手に浜で拾うことも許されない。

photo
尾札部とともに、最高級品の産地川汲の大漁祭
 カツオ節もそうだったが、昆布も機械干しが増えてきた。一家あげての作業が夫婦単位になり、機械に頼る。養殖昆布の増加が拍車をかける。

 「かぶれ(カビ)に苦労した。カツオ節のカビは善カビだけど、昆布のカビは味を損ない、おやじなんか、わらむしろに湯たんぽ入れてカビを防いでいた。低温保存の普及でそんな手間も昔話になった」

 天日干しはいいとわかっていても、できない浜事情は天然昆布。天日干しの白口浜をさらに貴重品扱いにしていく。

 一年前から訪ねた淡路のハモ、若狭ひとしお、伊勢エビ、薩摩本枯れ節の海に共通するのは、京の食彩を担った産地の急な変化である。

(編集委員粟津征二郎) 


 ■磨き抜かれた「献上」の味

photo
 北海道は昆布をほとんど食べない。使ってもだし。「町政施行三十周年で記録をまとめた時、京都の松前屋さんにもうかがった。歴史に磨かれた昆布の味は芸術品でした」と、南茅部町役場水産課。

 町は真昆布を使った削り昆布、とろろなどを試験的にセンターで加工をはじめている。おみやげ用に並ぶ白口浜の中でも「献上昆布」=写真=の銘柄が目立つ。地場産業振興センターの坂本洋一さんは「尾札部産は高級品で一般的でないため、なじみが薄く日高、羅臼に押されてしまう。地元で味の良さを知らないことには」と、試作品づくりに取り組む。

 「幕府の名で北海道を調査した村上島之充は『是昆布の絶品』と記している。献上昆布の天日干しの写真も残っている。トップブランドとして、つくってみた」。価格は、通常の真昆布の四倍から五倍。昆布の光沢が素晴らしい。

▲INDEX▲




[page design:yoshikazu-fujita]