Kyoto Shimbun 1997.10.18 社説から

 鴨川架橋合意への努力は十分か

 パリのセーヌ川に架かる橋のイメージは京都の鴨川に似つかわしいのか―と議論を呼んでいる鴨川歩道橋(三条―四条間・仮称)問題で、京都市都市計画審議会(会長・北里敏明副市長)は、架橋に伴う都市計画変更案を承認した。来週に予定される京都府の審議会の承認をへて着手の運びとなった。

 桝本頼兼市長は、これをうけた記者会見で「民主的な手続きは完了した」と語り、あらためて架橋の意欲を示した。しかし、シラク仏大統領からセーヌ川の歩道橋「ポン・デ・ザール」(芸術橋)をデザインした橋を鴨川に架けてはどうかとの提案があって一年足らず、市民からさまざまな意見が出始めている昨今の事情からして、拙速の感は否めない。

 民主的と強調するなら、型通りの手続きを踏むだけでなく、もっと市民合意への血の通った努力があっていい。ことを起こそうとすれば賛否両論は常である。文化や景観が絡めば議論百出するのが京都である。全市民の合意は無理としても議論を回避してはいけない。

 問題は京都の本質にかかわる。橋の予定地は、古都を代表する鴨川であり、都心である。しかも事業主体は私企業ではなく京都市である。京都市長の文明観と市民への姿勢が問われる局面なのだ。

 市長が京都の将来はかくあるべしとの哲学に基づき、地元活性化を考えて架橋を計画し、景観を損なわないと確信するなら、反対論にも正面からこたえようとする姿勢が必須である。

 三条―四条間の架橋構想はこの二十年の間に何回か持ち上がった。市長が「拙速とは思わない」と言うのはそのためだろう。三条―四条間が六百メートル余あり、中間に橋があれば便利だという意見も説得力がある。ただし、構想が浮上する度に激論があった経過も無視できない。

 最近では、鴨川東岸整備と府の河川改修に伴い、平成四(一九九二)年度に調査が行われた。当時、市は「両岸の住民をはじめ、広く市民や学者の意見を聞いて計画を立てたい」としていた。橋の必要性を含めて事前に十分な検討が行われるというのが一般の理解であった。

 それだけに、昨年十一月末のシラク提案に沿って歩道橋計画が一気に進んだのは、意想外な展開であった。両岸に石造の壮麗な建築物が並ぶセーヌの橋が鴨川にふさわしいのかどうかといった議論は抜きで日仏友好、京都パリ友好が強調され、対案も用意されなかった。

 計画案の縦覧で、橋のイメージを含めて意見を求めたところ、千七百人から意見書が寄せられた。建築学者をはじめ識者たちからいくつも要望書が出された。しかし、こうした意見や要望が、市民と行政、あるいは市民同士の議論に生かされる場がなかったのは残念である。

 それどころか、意見書の数が多かったことで市民の意見を十分に聞いたと判断したり、その中で肯定的意見が多かったことをあげて、市民は賛成と示唆したりするのも好ましいあり方とはいえない。これでは今後各種団体が意見書の数だけを競い合う悪弊を生みかねない。

 今からでも遅くはない。公開の議論を通して、市民の意見や要望を真正面から取り上げ、深める場を作ってはどうか。京都市長は、民主的な行政には手間も時間もかかることは百も承知のはずだ。


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