Kyoto Shimbun 1998.9.17 社説から

 「サイバー犯罪」への対策急げ

 コンピューターと通信の飛躍的な進歩によって国境を超えたネットワーク社会が広がっている。それに伴い新たな犯罪や不正行為も増えているのに、対策が追いついていないのがわが国の現状だ。

 国際社会はサイバー(電脳)犯罪への対策を強化しようとしている。国内での法整備を急がねばならない。

 今春発覚した金沢発の不正アクセス事件は専門家をも驚かせた。米軍システムへ侵入を試みた同市在住者のコンピューターを調べたところ、イスラエルの何者かがインターネットを通じて忍び込んだうえ、他人になりすまして侵入しようとしたものだった。

 コンピューター同士を結ぶネットワーク社会では、相手に気付かれないままでも交信できる。米国防総省への不正アクセスは年間二十五万件に及び、半数以上が侵入に成功したとの報告もある。

 単に情報を見るだけではない。システムに侵入して、データを盗んだり破壊したりする「サイバーテロ」が恐ろしい。国家の安全や企業活動などに脅威となるのは言うまでもない。現代社会のもろさをどう防ぐか、緊急の課題だ。

 コンピューターに縁のない人も少なくないが、それでもその犯罪や不正の影響が及ぶのがこの世界だ。プライバシーにかかわる個人情報がこっそり見られたり盗まれたりする。

 最近起きた大阪市の図書館ネットへの不正侵入はそうした懸念が他人事でないことを示した。また、経済活動で蓄積された個人情報は数多い。これまでも名簿などの書類やフロッピーが持ち出される事件があったが、次にはシステム侵入による漏洩(えい)が起こりえる。

 今年の警察白書は、こうしたハイテク犯罪の増加に強い警鐘を鳴らし、高度な技術力をもつ専門捜査体制の確立をあげた。遅ればせではあるが、この分野はまず専門家を育てることが肝要になる。

 捜査上の最大の問題は、不正アクセスを取り締まる法規制がないことだろう。侵入してデータ破壊などをすれば刑法の対象になるが、単に入り込むだけでは取り締まれない。欧米諸国はすでに禁止、処罰の法律がある。日本はいわば野放し状態で、金沢のケースのように不正基地となってしまう恐れさえ出てきた。

 この問題は一九八七年の刑法改正時に論議されたが、法規制は見送られた。しかし、ネット社会はインターネットによって飛躍的に拡大し、その利用も電子マネーや電子商取引など多種多様になっている。ID(個人識別番号)の無断使用などを放置していては、秩序ある新しい社会づくりはできない。まして、わが国だけが規制なしでは済まされまい。

 五月の主要国首脳会議(バーミンガム・サミット)でもサイバー犯罪防止への各国協力で合意した。国家へのテロ予防や犯罪組織の資金を締め出すのが狙いで来年の会合に行動計画を持ち寄る。

 対策が急がれながら、政府内は一本化していない。警察庁のほか、郵政、通産両省も対応策を検討し、縦割り行政がここでもまかり通っている。犯罪対策と産業育成を整理することが必要だ。


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