京都新聞社TOP

W杯日本代表の23人発表。W杯直前特集-後編-(連載第125号)

2010年05月14日

 待望の23人枠が発表された。サプライズがあったとか、なかったとか聞こえてくるのは、戦術抜きの雑音だ。私は、今までの岡田監督の采配から察するとこの線で落ち着いた布陣であると理解している。つまり冒険は好まず、堅実さを問うた結果だ。もちろん個々の選手には、疑問点や確認したい点は多い。しかし、決定した人たちには、実力以上の結果をだしてもらいたい。ただそれだけ。

 現在の日本の弱点は、守備にある。これまでの失点を分析すれば、次の二点だ。第一は、中盤の低い地点でボールを奪われてスピードと強烈なシュートで失点する。第二は、日本が攻撃している時点でボールを奪われ、あっと言う間にディフェンスの裏に蹴りこまれて失点するケースだ。数人に速攻でやられている。ほとんどのケースで、相手の巧みなパスサッカーで崩されて失点することはない。ようするにつまらない失点での敗戦である。守備も遅攻に対して中盤からの防御には強い。しかし、速攻とDFの後ろのボールには幼稚なほど弱い。では、これを防ぐ戦術が必要だと考える。

 今日の本題である監督ができる3つの仕事のひとつが戦術の決定である。(前号では代表監督の専任事項で一番重要な代表選手の選出について述べてみた)。戦術の柱は、どのようなフォーメーションを敷くかである。私が始めてW杯に出会ったのが37年前の西ドイツ大会であった。ヨハン・クライフ率いるオランダチームがこれまでの常識を破って全員攻撃全員守備というトータルフットボールを展開した。これまで常識だったサッカーの根本を覆したシステムだった。あれから、37年今ではそれが常識になっている。

 私は、日本チームにとって日本チームオリジナルのフォーメーションを展開するような革新的な行動を期待している。37年前のオランダのような世界が驚く戦術を披露する。例えば、DFを5人並べてボランチを2人敷く超守備的なシフトではどうだろうか。カメルーンのスピードを抑えるためにスペースを守備の数で埋める。多勢に無勢である。そして、攻撃は岡崎と本田に任せて速攻で1点取って逃げ切る作戦だ。いつも相手に遣られているパターンをやり返す。もちろん日本のパスサッカーのような美しさはない。批判も多い。しかし勝つための戦術のひとつだ。

 以前から述べていることもある。両ウイングに松井と長谷部を起用することだ。もちろん彼らには今以上の運動量が必要となる。37年前のオランダチームが豊富な運動量に支えられたトータルフットボールを実現したように、走り負けないスタミナと落ちないスピードを合わせ持つ日本式のトータルフットボールなのだ。ここ数年、4バックと2ボランチ、中盤の攻撃に厚みをつけた1トップとトップ下の攻撃パターンを見続けてきた。そして、W杯には何とか出場ができた。しかし、W杯では勝てていない。

 もう、頭を切り替えてチャレンジすべきなのだ。監督が試合前にできる由一のメッセージなのだから。(ちなみに試合中にできることは選手交替ぐらいである。監督がピッチでどんなに怒鳴ろうと、さして選手に意思は通じないものである)。(今回の守備の選手選出についても気がかりがある。センターバックは中澤と闘莉王だろう。しかし、初戦で中澤が負傷欠場し、闘莉王が一発レッドを食らうことは想定の範囲だ。その時点でセンターバックは岩政と阿部となるのだろうか、戦況は大きく狂ってしまう)。

 最後にもうひとつ3つ目の仕事を述べよう。それは大会への準備である。今回、岡田監督は、抽選会の以前にベースキャンプ地を南部海岸リゾート地のジョージに決定した。私は決定当時から悲観的に思っていた。それは、南アフリカという国の治安の悪さを充分知っていたからだった。(私は南アフリカを訪れた経験がある。その時この地の治安の悪さと経済格差を見た。訪問した日本人家庭の居間には護身用の拳銃が2挺あった)。ジョージは気候と治安の安定した保養地としては申し分のない所だ。しかし、日本代表はチャンピョンシップのために行くわけだ。集団ハネムーンではない。

 今や日本人の90%以上の人が初戦のカメルーン戦が非常に大事であると思っている。初戦はブルームフォンテーンと言う土地で内陸部の高地にある。気候も治安も悪い。私は以前から南アでのカメルーン戦は日本とって不利だと思っている。それは土地が持つ自然の空気(雰囲気)がカメルーンの空気と似通う。決して日本の空気の流れではない。南アでのサッカーは黒人の競技である。初戦必勝のために土地が持つ空気に慣れ、互角の戦いに持ち込む必要があるわけだ。それが三つ目の準備である。

 岡田監督は代表監督としてなすべき三つの仕事をやり遂げることが出来るのだろうか。まず選手選出を実行した。次の二つをこれから行う。三つとも叶ったとき、それは1stラウンドを通過している時だ。その答えはもうすぐ判明する。かつてジーコが言った。日本人選手は命令しないと動かない。そしてトルシェは、緻密なゲームパターンを繰り返し指示した。オシムは独特の言葉で指導し、選手を誘導していった。

 泣いても笑ってもあと1ヶ月で結果がでる。だからあんまり期待しないようにしたい。たかがサッカー、たかが世界最大のボール蹴りなのだから。