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ザッケローニの哲学。(連載第137号)

2011年02月20日

 今シーズン最高に美しいゴールがまた生まれた、イングランドリーグのルーニーのオーバーヘッドのダイレクトボレーだ。アジアカップの李のゴールも美しかったが、ルーニーのゴールはその難しさでは李を勝っていた。

 それにオランダリーグで初得点した18歳の日本人、宮市のゴールもすばらしかった。そのすばらしさは、いつも言うところのボールの持ち方が良い。ボールの持ち方と言っても手で持つことではない。プレー中のボールと体の距離と位置が良い。本田圭輔よりも良い。だから期待している。いきなり海外でやっていけるセンスと根性がすばらしい。すばらしいことばかりだ。ではでは・・・本題に入ろう。

 本日はザッケローニ監督著書を紹介してもみたい。これは彼の哲学書いうよりも、むしろ履歴書といった方が正解だろう。サッカー選手としては決して大成しなかった彼がイタリアの地方都市のアマチュアのクラブチームの監督からセリエC-B-Aと駆け上がっていった履歴書である。それもトントン拍子とはいかなかったことが窺える。苦労人ザッケローニがヴディネーゼで成功したまでを詳しく記載している。そして、その後ビッククラブを経て日本代表を率いるまでをインタビュー形式で補足する形で構成している。ヴディネーゼ時代に書いたものを急遽翻訳したらしい。

 今やザッケローニの人気は母国でも再評価されている。また、これを読めば彼のサッカースタイルは理解できるし(ゾーンディフェンスと3-4-3-システム)、イタリアサッカー界のクラブチームのことを細かく理解できる。ただ、サッカーのことにあまり興味のない方は、面白くない何ともない書物であろう。

 彼は、有名選手を登用する方法よりも若手選手を育成していく手法を好んでいる。彼は陽気なイタリア人気質としては正反対に冷静沈着な人だ。この本の終盤にこんな下りある。「ぜひ知っておいてもらいたいことだが、心の平静は大切な要素であり、それがほんの少しでも崩れてしまえば甚大な被害を生み、そのツケをグランドの中で利子をつけて支払うことになる」。彼がいかにゲームのみならず普段の生活においても心の平穏をチームに求めていることが分かるし、チームの輪を大切していることが伺われる。

 アジアカップ後の母国のインタビューにおいてアジアサッカーの広大さを挙げている。はるかかなたから全く異なったスタイルのチームがやってくる。日本や韓国で示される東アジアのサッカー、アラブ人の中東のスタイル、オーストラリアのようなヨーロッパスタイルと多種多様だ。そして日本代表選手についても、自分たちの荷物は自分たちで運ぶしロッカールームも片付ける。こんな選手を見たことがなかったとも言っている。私たちが興味の目で監督を見ているが、彼もまた日本人を興味の目で観察していた。

 今、彼は広大なアジアの中心に陣取った日本サッカーに大変注目をしている。「自分たちのプレーを貫け」。彼の持論だ。彼は将来を見据えて行動している。単純にこの試合あの試合だけのことを考えてはいない。

 私たちはザッケローニという人物に遭遇できた。それもほぼ偶然だった。その偶然が日本サッカー史上に残る名監督としての名を刻むことになるだろう。

【PHP研究所刊】
 【PHP研究所刊】

◇追 伸◇

 ザッケローニ監督がイタリアのサッカー協会から特別賞を授与された。その中で、日本文化を尊重することが大事であると述べている。また、日本の学校教育の中でのスポーツ教育の役割を大層評価している。指揮官は常に柔軟性がいることも強調している。