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お・も・て・な・し(連載第217回)

2013年10月7日

今月の10月20日まで滋賀県信楽まちなか芸術祭が開催されています。現代アート化したタヌキの置物が160体もあちこちで歓迎してくれます。


※今月の10月20日まで滋賀県信楽まちなか芸術祭が開催されています。
現代アート化したタヌキの置物が160体もあちこちで歓迎してくれます。

滋賀県の少年がレアル・マドリードに入団

 吉報と呼ぶべきだろう。滋賀県の少年9歳がレアル・マドリードの下部組織に入団を認められたニュースがあった。もちろん日本人として初めてである。いやアジア人で初めてかもしれない。下部の育成組織と言っても現在世界で活躍している多くの選手がそうであった。実力のみが評価される競争の異文化に彼は招待された。大丈夫だろうかと思われる方も多いだろう。そこで私は、問題ないと言いたい。彼の4歳からのプレーがテレビ放映された。それを見て瞬時に感じたことがある。彼には音楽で言うところの「絶対音感」が備わっている。つまり楽器などの助けを借りずに音高を識別する能力を先天的に備わっていることだ。よく絶対音感は幼児期の訓練によって身に付けられるという。彼はまさに天才的にサッカーが性に合っていて、その上幼児期にボールに接する楽しさを身に付けた。基本は右利きと思うが、左右を感じさせないなめらかな動作だ。

 私は「絶対音感」ならぬ「絶対球感」と呼ぼう。彼のプレーはかつてのジョージ・ベストや現在のメッシに似ている。ボールを自由に足で操る技術と体幹が同じ空間の中で共存していて、その中に敵を寄せ付けない間合いがある。決してスピードで相手をかわすタイプではない。あくまで彼の独特のタイミングでボールのすべてを足の前後・左右・表裏で操って抜け出すのである。どんな狭い場所でも彼には問題ない。後はゴールにそのまま持ち込んでいる。こんなにも絶賛することは珍しいけれど、天才を見たわけであるから仕方ないだろう。

お・も・て・な・し

 私はファストフード店の対応が嫌いだ。全国何時どこでも同じあいさつで、同じフレーズの問いかけをしてくる。相手の顔色も見ずに天気のことも関係なく、一年中同じことを言っている。もちろんこのチェーン店ではそれを目指して徹底的な教育をしている事だろう。どんな技量の人でも同一のサービスを身に付ける。それ自体を否定しているわけではない。そこで働く人々は店の経営方針に従っているに過ぎない。よって私の険悪は身勝手といわれても仕方ないだろう。しかし、もうすでにウン十年も経っているわけだから個性的なあいさつをすべきだろうと願う次第である。

 私が会社に入って10年程度経った頃に営業で京都の貴船にある料理旅館へ伺った。冬の寒い日、特に鞍馬や貴船はより寒いと思って頂いて良い。店のおかみさんと仕事の話がすんで帰社しようとして靴を履いた時に、靴の中がほんのりと温かいことに気が付いた。近くに炭火が入ったアイロンのコテのようなものがあった。私は、この暖かさはこれが正体だと思った。私は振り返ってその心地よさに礼を言った。なんだが心身ともに暖かく感じられた。今考えるとそれは「去り際のおもてなし」だと思う。

 東京オリンピックの招致でおもてなしの言葉がクローズアップされている。京都の老舗女将には、今更のように聞こえてくることだろう。きっと、大会実行委員会では「おもてなし」の種類を公募したりしていくことだろう。そして大会直前にはマニュアルが完成して、多くの日本人はそのマニュアルに沿って冒頭のファストフード店のように連呼しあうのだろうか。それはそれで不気味である。

 老舗旅館にはマニュアルはない。普段からお客様を大切にする生活習慣がある。だから振る舞いも自然である。表にいても裏にいても同じ空気を感じられる。ファストフードでは違う。裏にいる店員の愚痴がこぼれて聞く時がある。一瞬に興ざめして食べ物が美味しくなくなる。私は、東京オリンピック以後でも続く「おもてなし」を期待したい。特に帰っていく時の「去り際のおもてなし」を望みたい。

 Jリーグは残り試合が一桁になって、優勝チームと降格チームが見えてきた。今節、京都サンガは鳥取に1-0で勝利し連勝が続いている。観客は3900人だった。