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ワールドカップへの準備 ベースキャンプ地(連載第229回)

2013年12月14日

ブラジル東海岸の鮮烈な日差しと押し寄せる波

※ブラジル東海岸の鮮烈な日差しと押し寄せる波

ワールドカップまでの道筋

 簡単にワールドカップまでの道筋を確認してみたい。まずは基本となるベースキャンプ地の選考だろう。来年には国内で強化試合が組まれる。戦術と戦士たちの見極めになる。事務方による対戦国の分析や視察も行われる。春には、ブラジルでワークショップ、つまり監督会議が開催され、ブラジル大会のルールなどが発表されるし、大会組織委員会と各国NA(各協会)との懇談の機会があり折衝が本格化する。

 この時点でベースキャンプ地が決定していないとだめである。つまり良い場所はほとんど残っていないと言える。そして、最終の選手登録23人の選定である。監督が一番迷うところだ。しかし、外国人監督はドラスティックに考えるかもしれない。

 5月後半には準備キャンプ地に向かう。直接ブラジルに入る前に一歩手前でキャンプを張って最終戦術の確認と強化試合を組む。この準備キャンプ地は時差が近くブラジルに比較的近い温暖で環境の良い場所が選ばれる。日本の喧騒とブラジルの狂気から離れて精神的に落ち着ける場所がベストだ。

 大会三週間前後には、ブラジル国内のベースキャンプ地に入るわけだ。一旦入国するとマスコミに追われる日々が続く。その中でブラジルの様々な環境に適応しながら最終調整を行う。最初の試合日の3日前までにはレシフェに入る。そして、大会時刻と同じ時間に同じ競技場で練習を行う。それから初日を迎えることになる。以上が大まかなスケジュールだろう。

ベースキャンプ型とジプシー型

 キャンプにはベースキャンプ型とジプシー型がある。ベースキャンプ型とは名前のとおり大会期間中一定の場所にキャンプを設置して、そこを起点に転戦していくことを言う。
メリットは自分たちに適した場所を自由に選定できる。同じベッドに眠ることができて、同じ風呂に入れる。環境が整うことはメンタルには一番良いことだ。日本人は古来定住民族であり、規則正しい生活を好む。

 南ア大会の時はリゾート地のジョージで快適なキャンプ生活を営むことが出来た。日韓大会の時は静岡の掛川付近の和風旅館を貸し切って落ち着いてキャンプが張れた。この時は外界からのニュースなどはすべてシャットアウトだった。ドイツ大会の時は中都市の首都ボンだったと思う。宿泊ホテルの環境は決して良くなかった。

 デメリットもある。常に試合地への移動の繰り返しだ。よって移動時間は出来る限り短く抑えたい。長時間の移動は、そのものがストレスとなるからだ。

 私は移動には3時間が目安であると思っている。広大なブラジルではこの移動3時間は困難であることが想定される。移動3時間とは、ベースキャンプの宿舎から最寄りの空港まで貸し切りバスで30分、搭乗手続きは15分、チャーター機の空路が90分、試合地空港の手続きは0分(シップサイドにバスを付ける)、空港から宿舎まで30分である。以上で目安の2時間45分で3時間以内となる。帰路はその逆である。

 日韓大会の時、多くのチームは移動3時間以内に抑えることが出来た。移動が予定通りスムーズに出来たことが大会の成功につながった。移動は非常に大切なカテゴリーだった。

 もう一つのジプシー型とは、試合地会場を転戦してキャンプ地を試合地に組む方法である。大会組織委員会が用意した試合地宿舎に入るからキャンプ地滞在の経費は軽微だ。メリットは、試合地に最初から順応でき余計な移動時間は省かれる。ただし、デメリットも大きい。常に大会の喧騒の中で練習しなければならないし、自分たちの環境にあった宿舎や練習会場は選べない。

 大半のチームがベースキャンプ型だが一部にはジプシー型を取るところもある。どちらにしても一長一短である。そして、もうひとつベースキャンプ型とジプシー型の併用を取るチームも存在する。最初の一次リーグはベースキャンプ型で勝ち進んで二次トーナメントになれば転戦地型に移るわけだ。

 私は、日本はベースキャンプ地型一本で行くべきだし、監督やスタッフも同様の考えだろう。

ベースキャンプ候補地は

 最近の報道では、サンパウロ州サンパウロ郊外北西100kmに位置するイトゥ市の施設を候補としている。芝のグランド2面とプール、トレーニングジムがあり、宿舎にはバスタブの設置を要望しているとしている。以前にも言ったがサンパウロ州は日系移民の多いところであり、治安が悪く慢性の渋滞のあるサンパウロから100k離れた静かな環境が適している。

 ベースキャンプ地の最大の条件は、安全で安心してサッカーに打ち込めるかである。そして、静かで環境の良い地方都市が良いし、その上移動のしやすい空港があることも大きな要件である。私はイトゥ市には行ったことがない。だからはっきりしたことは分からないが他のサンパウロ州の地方都市と比べてみるとその価値は分かりやすい。ブラジルの名門チーム、コリンチャンスやサントスがキャンプを張る都市でもある。

ベースキャンプ地からの移動

 最後は移動の問題を検証してみたい。サンパウロ州イトゥ市から各試合会場までの移動距離を算出してみた。あくまで概算であるがおおよその見当は付く。最初の会場地レシフェまでが約1,800kである。次の会場地ナタルまでが約2,000kで最後の会場地クイアバまでは1,200kという具合である。すべて片道の直線距離である。よってベースキャンプ地からは毎試合往復の距離を移動することになる。

 中型の旅客機をチャーターされるとして時速800k平均で計算すると移動時間は、レシフェまでが2時間20分程度のフライトである。ナタルまでが約2時間30分程度でクイアバまでが1時間30分程度となる。いずれも前後のバス移動と搭乗時間を足すとレシフェまでの移動総時間は3時間35分で、ナタルは3時間45分、クイアバまでは2時間45分程度となる。ほんとうはこれに予定以外の時間が費やされるだろう。なんせここはブラジルだから、日本のように正確な運航は期待できない。

 運良く定刻どおり運行した場合でも私の理想とする移動時間3時間以内はクイアバだけとなってしまう。さぁ、どうしょうかと悩んでしまう。環境第一か移動時間か。

 参考までにブラジルのエスタダォン紙が報じた各試合地の移動距離は、日本は2,777kである。これはジプシー型でレシフェ、ナタル、クイアバの移動距離である。イトゥ市とナタルの往復の距離4,000kをはるかに少ない値である。ちなみに日本と対戦するコートジボアールは3,314kで、コロンビアは1,463k、ギリシャは2,266kとなる。

 一番移動距離の少ない国はベルギーの726kで会場地はベオグランテ、リオ、サンパウロで、一番移動距離の長い国はアメリカで5,588kである。ナタル、マナウス、レシフェの移動となっている。

 比較するときは数値で表すと本質が見えてくると言うが、先日のファイナルドローの裏に隠されていた現実が浮き彫りになっている。仮に日本が一次リーグで勝ち進んだ場合は、一位抜けであれば中3日でリオ、二位抜けであれば中4日でレシフェとなる。対戦するグループは死の組Dでウルグアイ、コスタリカ、イングランド、イタリアの上位2チームという事だ。

 仮に二位抜けで勝ち上がったとしたらたぶんレシフェでウルグアイと対戦することになろう。ぞっとする予定表である。事務方は今後の動きをシュミレーションしながら優位に進める準備をする必要がある。国際試合は、場外の駆け引きも大切な要素である。おいおいこの点についてもコラムで述べて行こうと思っている。

ベースキャンプ地の決定は

 さて以上を踏まえてベースキャンプ地はイトゥ市で良いだろうか・・。私にはブラジル組織委員会作成のキャンプ地推薦リストがあるわけでもない。乏しい情報から移動距離の少ないイトゥ市以外の地域を見つけることは出来ない。ここから先は技術委員会とその優れたスタッフの仕事になるだろう。幸いブラジルにはあの人がいる。そうジーコ氏だ。彼のアドバイスを得ることは大きな前進になるだろう。ただし、彼のアドバイスがあってもどこも一長一短であることは想定できる。

 最後はザッケローニ監督が判断することになるだろう。私たちはその判断を尊重しつつ、希望と勇気だけは胸に秘めておきたいものだ。