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「夢はまだ終わっていない」ネイマールのメッセージ (連載第268回)

2014年7月7日

ゴルゴバートの丘に建つキリスト像は何を思う。ブラジルの星は6個になるのだろうか。

※ゴルゴバートの丘に建つキリスト像は何を思う。ブラジルの星は6個になるのだろうか。

ネイマールの志

 ブラジル対コロンビア戦で発生したネイマールの負傷退場には大変驚いた。その日のツイッターでは彼のケガのMRIがアップされていて、腰椎の第三椎骨の一部が折れて剥がれている画像だった。僅か22歳の青年がブラジル国民2億人の期待を一身に受け止め全世界十数億人の視線に自分のすべてをさらけ出している。個人情報の保護なんて全く関係のない世界であり、プライバシーのひとかけらも存在しない。

 それ以上にブラジル国民、全世界の彼のファンにとっては一喜一憂するメッセージだろう。その日の内にキャンプ地をヘリの輸送で離れ治療に専念することになったネイマール、彼自身が大会途中で志半ばでの離脱に一番悔しい思いをしているはずだ。たぶん言葉にできる唯一のメッセージだろう。

 今年は34歳でこの世を去ったF1レーサーアイルトン・セナの20回忌である。三度のF1チャンピオンに輝きブラジルのヒーローとして光輝いていた彼の死はブラジル全国民が惜しみ悲しんだ。彼の墓はサンパウロのモルンビー公園にあって多くの花束で耐えることがない。ある意味セナ同様に大会途中でネイマールの離脱を余儀なくされた国民にとっては、悲しみの中やるせない気持ちであろう。しかし、一夜明けて新たにブラジルの優勝を信じる人々も多い。それはネイマールの犠牲の上に成り立っている。

 セナの墓標に刻まれた言葉は新約聖書の一節で「高いものも深いものもどんなものも神の愛から私たちを引き離すことはできない」 今やネイマールとセレソンを引き離すものはいない。

準々決勝

 このような戦いがW杯の醍醐味であり世界最高峰の水準なのだ。そんなゲームが続いている。サッカーの最高プレーを楽しむなら四年に一度のユーロ大会(欧州選手権)を観戦するが良いと言われる。国の威信と国民への誓いを見るならW杯だろう。準々決勝のブラジル対コロンビア戦はまさに国の威信と国民への誓いの現れそのものだった。

 この世界から戦争がなくなれば、国の争い事はサッカーで決定するしかないだろう。そんな時の戦い方がこのゲームだった。サッカーというゲームを借りた格闘技だった。たぶんブラジルサルバドールにやってきた黒人の格闘技カポエイラが原型だろう。

 ブラジルは開始早々から当たりの強いタフな展開を選択してきた。相手を見るというものではない。最初の一撃で敵を倒す迫力が見えた。それに対してコロンビアも徐々に組み立て始めた。ハメス・ロドリゲスを中心にブラジルの攻撃をいなし始めた。

 決定づけたのはダビトルイスの少し抑えたサイドキック気味の無回転シュートだった。
背の低い人にはあれは蹴れないたぶんボールは中を舞う。背が高い選手だからボールを抑えて蹴れた。見事だった。ただ、あの時のファウルを取ってフリーキックをブラジルに与えた主審に疑問符がついている。スペイン人の主審だ。たびたびのブラジルのラフプレーにイエローカードは出さなかった。本来レッドカードを出すべきGKジュリオセザールの場面でもイエローカードで済ませている。その基準がすべてのプレーを荒くして行った。結果ネイマールのケガにつながったと言う見方もある。

 いずれにしてもブラジルは高い代償と引き換えにベスト4へと登ることが出来た。

 フランス対ドイツの欧州決戦も見応えがあった。どちらが勝ってもおかしくない展開だった。大概そんな場合はドイツが勝ってきている。

 アルゼンチン対ベルギー戦はメッシの好調をなんとか持続したゲームだった。試合中にデイフェンスへ走るメッシの姿があった。多くの人はなぜ彼はボールをとられないのかという疑問を持つ。その答えは簡単だけど、何に例えて言おうか迷っている。腕時計に例えるならば、ほとんどの選手のテンポは電池式腕時計の動きだ。その秒針はカチカチと一定のリズムで進む。リズムが一定だから次の行動が読める。メッシは手巻き式腕時計の秒針の動き。ツツツツ・・・・と半拍で進む。区切りがないから次の行動が読めない。わずか数センチの幅でボールと体を入れ替える。リズムとテンポが普通人と違うからである。

 今まで多くのスタープレーヤーを見てきた。その大半がずば抜けたスピードで相手を置き去りにして抜くタイプとテクニックを駆使してタイミングで抜き去るタイプだった。テンポとリズムの違いで翻弄する選手はメッシただ一人である。

オランダ対コスタリカ戦で見た勇気ある決断とは・・・

 未明のこの対決も見応えがあった。攻めるオランダに対して守るコスタリカだった。前後半でも決着がつかずに延長の末PK戦となった。再三のオランダのシュートがゴールポストに嫌われた。延長に入る直前にオランダのファンハール監督はGKを代える三枚目のカードを切った。普通攻守の要であるGKを代えることはない。初めてゴールマウスを守るGKクルルはひときわ大きい体格の持ち主だった。監督の采配は的中した。彼はPK戦で二度止めることになった。そしてベスト4を勝ち取った。GKを代えることで前後半延長と運についていないオランダの流れをリセットしたのだ。

 この試合伏兵のコスタリカがオランダの攻撃を十数回のオフサイドの反則で止めている。
コスタリカは苦しい時間帯でも一貫して最終ラインを引かなかった。最終ラインを一致団結して高く保つことは統率力と勇気が成し遂げる技そのものだ。中米の小国コスタリカのベスト8は大変価値ある偉大な戦術からなりたっていた。それは勇気が必要であるから最大限の評価としたい。

 予想した通りと言えばそれまでだが、準決勝はともに欧米決戦となった。ブラジル対ドイツ、アルゼンチン対オランダ。どちらが決勝に進むかは分からない。今となっては愚問だろう。ただ言えることは、過去アメリカ大陸開催年におけるヨーロッパチームの優勝はないと言うことだけだ。そして歴史は繰り返される。