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ベロホリゾンテの悲劇 (連載第269回)

2014年7月10日

ブラジルサンパウロの街角の風景 カメラが押さえたブラジルの平凡な日常の断片。祭りの後、平穏な日常を取り戻すことがしばらくは困難かもしれない。

※ブラジルサンパウロの街角の風景 カメラが押さえたブラジルの平凡な日常の断片。
祭りの後、平穏な日常を取り戻すことがしばらくは困難かもしれない。

準決勝 Semi-final 歴史的大敗

 9日未明のブラジル対ドイツ戦のあとは気持ちが落ち着かないで半日以上も無気力状態が続いてしまった。海の向こうの日本人でさえその大敗の大きさにショックを受けている。 現地では、泣き崩れる人々の顔がテレビ画面に映し出され、ニュースではバスの放火や商店の略奪が始まっていると伝えられた。まさに悲劇そのものだった。

 マラカナンの悲劇は過去のもので、ベロホリゾンテの悲劇はまさに現在進行形だろう。 国民に向かって監督、選手が謝罪する場面が見える。日本では考えられない光景が地球の裏側で広がっている。誰も予想していない結果が起こってしまった。サッカーは恐ろしいスポーツだ。

 少し冷静になって試合を振り返って見よう。ゲームは静かに始まった。試合前の国歌斉唱でジュリオセザールとダビトルイスが背番号10のネイマールのユニホームを握りしめていたのが印象的だった。開始からブラジルは攻めてはいたがシュートがなかった。FWはシュートを撃つべきだった。特に9番をつけているフレッジにシュートがほしかった。それで波に乗れる。ドイツの先取点は攻撃中のブラジルのマルセロの不用意なバックパスから始まった。ボールは一気にドイツに攻め込まれコーナーキックになってしまう。 コーナーキックでまたブラジルのミスが出てしまう。 ドイツのミュラーに付いていたダビドルイスがドイツ選手のブロックに会いミュラーに振り切られてしまう。そこへボールがやって来る。フリーのミュラーの鮮やかなゴールだった。

 そして、二点目がどちらになるかがこのゲームのカギであった。ドイツの強固で緻密なパスサッカーが右サイドを崩す。ブラジルDFが引いて守ったことが問題だった。ゴール前に十分なスペースが生まれる。そこを巧みについたクローゼの大会通算16ゴール新記録を樹立したゴールだった。後はドイツのゴールラッシュだった。その一つ一つのゴールは記憶に薄い。

 その主原因はブラジルが守備ラインを引きすぎたからだろう。ゴールを立て続けに奪われたらどうしても引いて守りたくなる。引けばスペースができる。そのスペースを自由に使われて失点を繰り返す。そして、その状態でDFまでも前線に向かって点を取りに出てしまう。完全にチームとしての組織は失われてしまった。

 次第に守備と攻撃陣との間が間延びしてしまう。そして焦って攻め急ぐ、一旦ボールを奪われると一気に自陣ゴール前まで攻められてしまう。ますます窮地に陥ってしまう。まさにそんな悪循環であった。パニックだった。あのブラジルがパニックになった。ベンチも何もできなかった。無能と言われても仕方ないだろう。老練のはずの監督までも成すがままに時間の経過を待った。悪夢の5失点で前半を終えた。

 今回コスタリカやチリがすばらしいサッカーをやった。その第一にあげられるのがDF陣が勇気をもって下がらなかったことだ。このチームはネイマールのチームだった。彼のセンスで中盤と前線をこなしていた。DFはボールを奪ったらネイマールを探して、彼に一旦ボールを預ける。ネイマールはそれをなんとかキープして前に向くと前線に向かって猛スピードでドリブルする。その間にDFはバックラインを押し上げていた。この単純な繰り返しがブラジルの戦術だった。そして、前線と守備ラインをコンパクトにする方法でもあった。唯一ネイマール頼みだった。

 そして失点を食らった時点でDFラインを統率する選手も不在だった。本来はチアゴシウバが担っていた。ふたりのスターが欠けたことがこのチームを劇的に弱体化してしまうことになった。その上、唯一の頼みでもある二人のFWに期待が込められた。しかしこの大会FWのフレッジとフッキの調子はイマイチだった。このゲームもそのマイナス面が露出してしまう。欠場のふたりネイマールとチアゴシルバの代役として出場したオスバルトとダンテもイマイチ機能していなかった。

 違った角度から見ると、今大会のブラジルはダイビングが多かった。初戦の西村主審のPKに気を良くしてかは分からないが、踏み止まることが可能な状況でもダイブのように倒れた。この試合もまたフッキをはじめとしてダイブで大げさに倒れた。もう主審は笛をふかなくなっていた。これでは本当に足を掛けられて倒れてもファールをもらうことができない。そんなことを彼らは分かっていたのだろうか・・・

 マイナス面ばかりだった。後半も2失点して1-7の歴史的大敗となってしまう。ブラジルメディアは恥じの中の恥と評した。

 以上が私の分析だ。ドイツの良いところを書いていないがひとつ挙げると今大会MVP候補でもあるGKノイヤーだろう。ブラジルの攻撃を一点で食い止めている。彼は現在世界一のGKだろう。

 三位決定戦の相手はオランダに決まった。しかし、今のブラジルに勝ちきれる余裕はない。

準決勝 Semi-final アルゼンチンの意地

 今朝の準決勝アルゼンチン対オランダ戦は昨日のブラジル対ドイツ戦と変わって緊張感あるゲーム展開に終始した。シュートも一桁と少ないしお互いの持ち味を消されたゲームだった。結果は0-0の引き分けでPK戦に突入し2人外したオランダ対して全員が成功したアルゼンチンが勝った。そして24年ぶりの決勝進出を果たした。

 二戦続けてPK戦でオランダには奇策はなかった。前の試合と同じことをしても無意味だった。また、そんなことが連続して成功するほど甘くもなかった。数少ないオランダの攻撃を食い止めたアルゼンチンDFの勝利と言ってよい。アルゼンチンは最終ラインに4人のDFと最終ボランチに4人が並んで厚くゴールをブロックしていた。これに対してオランダも5バックでゴールを守りメッシに決定的な仕事をさせなかった。ただ時折メッシにボールが渡ると魅せるプレーに歓声が飛んだ。

 後半も緊張感のあるゲームとなった。ただひとつ感じたことはオランダのロッペン、スナイデルが消化不良でフラストレーションを起こしている事だった。思い通りのプレーができないスナイデルのゆがんだ顔が時折クローズアップされた。

 PK戦はサッカーの神様に委ねるしかない。そして、アルゼンチンが決勝へコマを進めた。 ブラジル大会で南米の雄アルゼンチンが決勝に進出したことは大変意義深い。もしもドイツとオランダが決勝戦となれば、ユーロの決勝を見るようだからだ。ユーロは先で良かったのだ。4年後スナイデルもロッペンもいるかどうか分からない。ブラジルとの三位決定戦が有終の美となるかもしれない。

最後に・・・

 2002年日韓大会でもドイツは大勝した。試合はグループリーグ札幌ドームでのドイツ対サウジアラビア戦だった。私は往路サウジアラビアをエスコートして札幌に飛んだ。帰路はドイツのフライトに乗ったことを覚えている。ドイツが8-0で大勝したゲームだった。急遽帰路のフライトでドイツ協会のベッケンバウアー氏が同乗することになった。彼を千歳空港で出迎えて最後に機内に案内した時にそれは起こった。ドイツチーム全員が起立して大拍手を贈ったのだった。ご想像のとおり大喜びの旅だった。

 今後ブラジルの大敗でW杯そのものが失敗に終わる可能性がある。しばらく下火だったストが再開され、政府のW杯関連支出1兆1千億円の使い道への疑問が掘り起こされる。インフラの整備も途中だし、崩落した道路もあった。オリンピックリオ大会の開催問題に飛び火することは疑う余地はない。本来人々を幸福にするW杯が不幸の火種になることは避けたい願いだ。