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クラブW杯準決勝 広島世紀の番狂わせ逸する (連載第335回)

平成27年12月17日



※アルゼンチンに居るかのような錯覚をする長居スタジアムだった。まさか日本がこのような状態になっているか誰も想像できなかっただろう。彼ら(リバープレートのサポーター)
の発するエネルギーはどこから湧いてくるのだろうか・・・・
※アルゼンチンに居るかのような錯覚をする長居スタジアムだった。まさか日本がこのような状態になっているか誰も想像できなかっただろう。彼ら(リバープレートのサポーター) の発するエネルギーはどこから湧いてくるのだろうか・・・・

※スタジアムに入れないサポーターが会場周辺で大合唱している。スタジアム内外で怒涛のような声援が地震のように伝わってくる。不思議な体験だ。
※スタジアムに入れないサポーターが会場周辺で大合唱している。スタジアム内外で怒涛のような声援が地震のように伝わってくる。不思議な体験だ。

サッカー文化の違い

 昨晩の長居競技場、久々に出かけてみた。チケットは簡単に手に入った。そこで体験したことはこれまでの人生で数回しか経験することがないものだった。確かブラジルとイタリアで観戦した時のものだ。感動をはるかに超えた不思議な異次元の世界の中に居る。私のみならずその場で観戦した日本人皆が味わった貴重な一夜だった。

 始まりは長居へ向かう地下鉄の中からだった。圧倒的にリバープレートのユニホームを着たアルゼンチン人が目立っていた。長居の駅に着くなり応援歌の大合唱が始まった。すでにそこはブエノスアイレスに化している。青年から壮年まで男女問わずリバープレートのサポーターがここ地球の裏側に集っている。私は時計を確認する。まだゲーム開始の2時間前だ。この日のゲームは2試合あって、先日広島に負けたマゼンベ(アフリカ王者)とメキシコのクラブアメリカ(北中米王者)の5-6位決定戦があった。

 一説によると2万人のサポーターがアルゼンチンからやってきたという。長居公園はそんな彼らに占拠されていた。多くのサポーターと談笑しながら(知っている限りの日常スペイン語を駆使し)、スタジアムまでの道のりを楽しんでみた。事前に買ったリバープレートのマフラーが役に立った。

 本日の入場者は2万人と発表があったが、おそらく半数の一万人はアルゼンチン人だろう。残念なのはスタジアムの半分が空席であった。広島からのサポーターも少なく完全アウエー化していた。スタジアムの中はまさに異国である。トイレや売店の周囲はすべてアルゼンチン人、通路やフェンスにもアルゼンチン人だった。それにはいくつものの要因がある。日本人は礼儀が良いのか椅子に腰掛けて観戦をする。待ち時間も同じだ。通路やトイレで騒いだりしない。その上サッカー観戦に慣れていない。

 しかし南米のラテンでは違う。リズムのある音楽とダンス、だれが音頭をとるわけでもないのに応援歌が始まっている。一人が叫ぶと周辺が応える。そしてその輪はスタジアム全体に響いていく。日本人の応援は違っている。誰かリーダーがいないと始まらないし、まとまらない。リーダーが合図をして合唱が始まるのだ。

 これをサッカー文化の違いと一言で片付けることはできない。歴史と習慣の違い、民族の違い、食い物の違いだろうか・・・・? しかし、プレーするサッカーのルールは同じなのだ。広島に失うものは何もない。私は歴史的快挙をただ唯一望んでいた。

広島0-1の惜敗

 リバープレートサポーターの大合唱は途切れることはなかった。時折全員が起立をしてジャンプすると震度2-3程度の揺れを感じる。そして自分もつられて同じように腰を振り腕を掲げている。彼らはそんな日本人にも応援用の風船を配って仲間に引き込んでいる。彼らは決して暴挙には出ることはない。秩序と整然が行き渡ったサポーターである。純粋に自分たちの愛するサッカーチームを応援に遥か彼方のサムライの国にやって来た。

 そんな中にも彼らのどよめきが一瞬止む時があった。それはサンフレッチェ広島の攻撃でピンチにあった瞬間であった。サンフレッチェの戦士たちは中二日の過酷な状況の中で彼が出せる精一杯のサッカーをやった。スピートとテクニックに勝る相手に対して自分たちのサッカースタイルを貫こうとした。しかし、その狭義の戦術は研究され尽く相手のリーチの長い足に引っかかってボールは取られてしまった。

 前半を凌げば世紀の一勝が手に入ると思っていた。徐々に広島の選手たちにリバープレートのサッカースタイルが馴染んでくる。前半あっという間に終わってしまった。0-0のドローだ。互角だろう。後半は逆にリバープレート側にプレッシャーが掛かる。一万のサポーターの声援が後押しからプレッシャーに変わるのである。

 後半も一進一退が続く。しかしいつもの青山のキラーパスが届かない。前線のドウグラスや皆川に疲れが見えている。考えてみればJリーグが終わってチャンピオンシップで連戦し、そしてこの大会へと休む暇のないスケジュールが続いている。そして、このチームと対戦しているのである。広島にとってはホームではなかった。

 そして後半27分、私が危ない危ないと叫んでいたときFKからこれまで攻守だったGK林のこぼれ球をヘッドで決められて失点してしまう。この失点で広島の糸も切れてしまった。途中交代のミキッチが再三攻め込むがFWに鋭いシュートを打つ力は残っていなかった。

 以上が大阪にいてアルゼンチンに旅した気分になった老サッカー小僧の体験談である。そしてクラブW杯はバルセロナの登場だ。