Kyoto Shimbun 1997.1.26

<3> 漁業被害


 岩ノリ全滅、アワビも駄目か

 厳冬の海から吹きつける風が肌をさす。24日、京都府竹野郡網野町の浜詰海岸。カ ッパ姿の漁師が岩場にべっとりついた黒い油塊を木のヘラでこすりとる。缶に入れた後、ロープを使って高さ4メートル上の道路に上げていく。凍てつく寒さで身体が芯(しん)まで冷える。

岩場に付着した重油を木ベラでこすり取る漁師
(24日、竹野郡丹後町袖志)
 「岩ノリは全滅。サザエやアワビも貝の中に油が入って駄目かもしれん」。漁師になって55年以上。サザエやアワビ漁を中心に漁をする坂下善治さん(70)は沖の漁場を指さした。耳が赤く、吐く息が白い。漁獲対象となる直径10センチを超えるアワビは水深5メートルの所に多くいて浮遊重油の影響はまず心配ないが、放流稚貝の多くは水深1メートルほどの浅瀬におり、打撃を受けやすいという。

 また、丹後半島沿岸の岩ノリは10月から翌年4月までが漁期で、本来なら収穫の盛期だ。与謝郡伊根町の蒲入漁協は「ことしは例年より値もよく、量も多かったのに」と、無念さをみせる。

 7年前、伊根町のカマヤ海岸で沈没した貨物船の重油流出で、同町の岩ノリ収穫は激減した。岩場は油が付着すると、きれいにするのが難しく、府と伊根、網野、丹後3町は事業費約5千万円をかけて7カ所の岩場(約6,280平方メートル)にコンリートを塗る床張りをした。

 ●定置網の影響深刻

 寒ブリなどが捕れる定置網にも影響が出ている。府内の定置網で冬季休漁を除く33 の定置網のうち、網に油が付着して引き上げたり、接近で操業を取り止めたのは、17日の伊根町蒲入漁協や久美浜町湊漁協など13網をピークに連日影響が続いている。

 「入る魚の種類や漁によるので、いちがいには言えないが、定置網を1回、引き上げると水揚げは数十万円から大豊漁ならば数千万円、平均でも数百万円になる」と漁業関係者はいう。

 京都府水産事務所(宮津市)の清野精次所長は「油の漂着が続き、漁協は回収作業に追われている。被害算定はまだ先になるが、7年前に比べて被害地域が広く、被害額は高額になるだろう。定置網の被害は特に深刻だ」と話す。

 直接的な漁獲被害だけでなく、処理剤の影響も無視できない。7年前の重油流出事故で磯に大量にまき、伊根町蒲入などのサザエやアワビの出荷が半年間も中断した教訓から、今回は海岸では使用されていないが、沖合ではまかれている。

 府立海洋センターの篠田正俊所長は「処理剤を含んだ重油が沿岸に漂着すれば、アワビやサザエに影響する可能性がある」と話し、予算措置がつき次第、貝に入った油や処理剤の含有量を測る実態調査に入る。

 ●被害補償額に不安

 重油回収に追われる漁業者にとって、被害補償がきちんと行われるかどうかも不安材料だ。今回、補償金の支払いは船主責任保険の上限の3億円を超える場合はタンカー荷主などでつくる国際油濁補償基金が最高225億円まで拠出するとみられるが、予断は許さない。

 府漁連の野村知史課長は「7年前の流出事故では、被害額を約5億5,500万円と算定したが、法などのさまざまな制約で1億8千万円で合意せざるをえず、苦い思いをした」という。

 油塊は遠く秋田県まで漂着した、福井県三国沖の船首や島根県沖に沈没した船体後尾部分からは、今も重油が漏れ出している。


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