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伝えたい、性と暴力:被害者 1人で背負うには重すぎる

ユキさんは今でも心の中にモヤモヤを抱える。「加害者のこと、捜査のこと、すべてを知りたい。真実が分かれば自分の感情もはっきりしてどう立ち向かえばいいのか分かると思う」(京都市内)
ユキさんは今でも心の中にモヤモヤを抱える。「加害者のこと、捜査のこと、すべてを知りたい。真実が分かれば自分の感情もはっきりしてどう立ち向かえばいいのか分かると思う」(京都市内)

 「レイプじゃなくてよかった」

 「鍵をかけ忘れたのが悪かったんだよ」

 「もう忘れたほうがいいよ」

 そんな言葉の数々にどれほど傷つけられたことか。京都市内に住むユキさん=仮名=(25)は、社会人になって間もない2013年夏、うっかりと施錠を忘れて就寝し、部屋に忍び込んできた男に胸を触られる被害にあった。

 午前3時ごろ、気配に気付いた。ユキさんが身を起こそうとすると、男は驚いたように手を引っ込め、そのまま立ち去った。混乱しながらも「とにかく110番しなくちゃ」と思い、警察に通報した。駆けつけた捜査員は男性ばかり。ユキさんは恐怖心を訴えることもできず、言われるままに協力した。

 夜明け近く、女性警察官がようやくやって来た。彼女がユキさんに「怖かったね」との言葉をかけてくれるまで、「ただただ不安でした」と振り返る。その直後からユキさんは不眠に悩まされた。犯人は事件から4カ月ほどして逮捕され、引っ越しもしたが、不安はいつまでも消えない。夜中に目が覚めては「鍵をかけ忘れてないか」と不安でいても立ってもいられなくなる。通勤途中に急に涙があふれてくる経験もした。

 眠れない夜、ユキさんはネットで「性犯罪 眠れない」「事件 怖い」など思いつくままの言葉をパソコンに入力。あてもなく検索するうちに、地域の「犯罪被害者支援センター」という言葉に行き当たった。「こんなところがあったんだ」。誰も教えてくれなかった。初めて知った驚きとともに急いでホームページを保存した。

 「犯罪被害なんて身近ではないから、いざ被害者になった時に混乱してどうすればいいのか分からなくなってしまう」。必死になって探さなくても必要な情報が自分のそばにあって、その中から選べたら-そう願う。「何もかも1人で背負うには重すぎるんです」

 心が少しずつ前を向けるようになったのは、事件から5カ月後、大学時代の恩師の紹介で出会ったカウンセラーの存在が大きい。

 「その時のつらさを否定せず、ただ私の話を聞いてもらえた。本当にありがたかった」

 事件から1年が過ぎたころ、カウンセラーの女性と一緒に事件現場に近づく練習をした。最初は2人で、少し慣れてきたら途中から1人で。そうやって10回以上足を運んだら、1人で現場を通れるようになった。「自分の中で大きな自信になりました」

 事件から2年がたった昨夏、ユキさんは事件について記したブログを開設した。薄れゆく記憶を押しとどめるように、言葉で残しておきたかった。発生直後にあったこと、犯人から届いた謝罪文のこと、裁判を傍聴した時の感想などを細かく書いたブログは、今も続く。

 どれほど時間がたっても、事件が起きる前の状態には戻れない。だからこそ、すべて知りたいと思う。最近、当時の新聞記事をようやく見つけて胸の中でモヤモヤしていたものが一つ、クリアになった。「忘れろなんて言わないでほしい。本当のことがすべて分からなければ自分の気持ちもはっきりしない。前に進むためにも事件と向き合わなければならないんです」

     ◇

 各地で性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターが開設され、強姦(ごうかん)罪の法定刑引き上げを含む刑法改正も議論されている。性犯罪の被害に遭った人が何を望んでいるのか、性暴力を未然に防ぐために何が必要なのかを考える。

【 2016年03月26日 17時50分 】

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