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“唯一”の証拠、自白焦点に 滋賀・湖東病院事件第2次再審請求

大阪高裁での3者協議後、進展を説明する井戸弁護団長(右から2人目)=6日、大阪市北区
大阪高裁での3者協議後、進展を説明する井戸弁護団長(右から2人目)=6日、大阪市北区

 滋賀県東近江市の湖東記念病院で2003年、男性患者の人工呼吸器のチューブを外して死亡させたとされる事件で、殺人罪で服役中の元看護助手西山美香受刑者(37)が裁判のやり直しを求めた2度目の再審請求の行方が注目されている。確定判決を支えるほぼ唯一の証拠は捜査段階での自白だが、公判では無罪を主張した。弁護団は患者は病死したと主張しており、自白の信用性を裁判所がどう判断するかが焦点となりそうだ。

 確定判決では、西山受刑者は上司の叱責や待遇への不満から病院に恨みをいだき、それを晴らすため事故を装って患者の殺害を計画。人工呼吸器のチューブを抜いて殺害し、その後チューブをつなぎ直すなど隠蔽工作もしたとしている。

 しかし、チューブを外す場面の目撃者や行為を裏付ける証拠はなく、チューブが外れれば鳴るはずのアラームを聞いたという証言もない。事件の核心について、西山受刑者の供述も揺れ続けた。「布団をかけたら(チューブが)外れた気がしたが放っておいた」「勢いよく引っ張り上げて外した」「アラームは鳴り続けた」「鳴っていない」と変転。確定判決は最終段階での供述から、チューブを外した後でつなぎ直し、アラームは消音ボタンを押して消した、と認定した。

■警察官に好意

 虚偽の自白をしたと公判で主張した西山受刑者は、その理由を刑務所でノートに記している。一緒に発見した看護師が異変を見落とした過失を責められているのを知り、かばおうとしたことと、取り調べた警察官への好意を挙げた。「私には友達もいなかったし 刑事(文中は実名)に少しやさしくされたらやっぱり異性も関係あると思うけど すごくうれしくて調子にのってしまった」

 西山受刑者をよく知る人や専門家は、自白の経緯や供述の変転に受刑者の性格が影響したと指摘する。

 西山受刑者を教えた元中学教諭で、今は支援団体の代表を務める伊藤正一さん(69)=米原市=は「先のことを見通すのが苦手で、その瞬間の感情で動いたり周囲の人の言葉になびいたりしてしまうところがあった」と振り返る。

 第1次再審請求で受刑者側が提出した大谷大の脇中洋教授(心理学)の鑑定は、供述調書の分析や面会から、かなり高い他者への迎合性や、葛藤状況で自暴自棄になる傾向を指摘。取り調べた警察官との関係性の中で「真の体験記憶による供述から虚偽供述へと変遷したとみなすのが妥当」と結論づけた。

■死因への疑問

 憲法や刑事訴訟法では、本人の自白が唯一の不利益な証拠の場合には有罪にできないと定めている。西山受刑者の場合は、男性患者の司法解剖を行った医師の鑑定が自白を補強する証拠だった。

 司法解剖の結果、死因は急性の心停止だった。鑑定では心停止の原因として、発見時にチューブが外れていたという看護師の証言を前提に「酸素供給が途絶した事による急性低酸素状態」を挙げた。だが、確定判決では発見時はチューブがつながっていたとされ、前提とした看護師の証言は宙に浮き、鑑定が自白を補強する根拠は希薄になる。

 受刑者側は現在行われている第2次再審請求の抗告審で、男性患者が致死性不整脈で病死した可能性を指摘する医師の意見書を提出した。「急性の心停止」とも矛盾はなく、事件性はないと主張する。

 最高裁は1975年の「白鳥決定」で、「新証拠と古い証拠を総合的に判断し、有罪とするのに疑問が残れば再審を開始すべき」との判断を示した。現実には再審開始の壁は高く、弁護団長の井戸謙一弁護士は「白鳥決定は司法の現場で生かされていない」と憤る。

 西山受刑者は8月に満期出所を迎える。抗告審の決定が出る時期は未定だが、早くとも出所後となる見込みだ。

・湖東記念病院事件 2003年5月22日、東近江市の湖東記念病院に入院していた植物状態の男性が心肺停止状態になっているのを、当直の看護師と看護助手だった西山美香受刑者が発見。看護師が「チューブが外れていた」と話したことで事件と事故の両面で捜査が始まった。男性の死亡から1年以上が過ぎた04年7月に西山受刑者がチューブを抜いたと自白し、殺人容疑で逮捕された。公判では一貫して否認し、最高裁まで争ったが殺人罪で懲役12年が確定した。

【 2017年07月18日 11時51分 】

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