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刑事に好意、言う通りに自白 検証・湖東病院事件(1)

主任弁護士の井戸謙一さん(左)とともに、事件当時を振り返る西山さん=7日、彦根市
主任弁護士の井戸謙一さん(左)とともに、事件当時を振り返る西山さん=7日、彦根市

 「この人に全部任せておいたら間違いない」。13年前、取り調べを受ける西山美香さん(37)がそう思った相手は、弁護士ではなく、目の前の若い男性刑事だった。「この人の好むようなことを言ってあげよう」。供述は二転三転し、思いもよらぬ方向に発展していった。

 2003年5月22日の早朝、滋賀県湖東町(現東近江市)の湖東記念病院で入院中の男性患者が心肺停止状態になっているのが見つかった。患者は人工呼吸器を着けていたが、発見した看護師は当初「チューブが外れていた」と報告した。

 警察は、当直の看護師や看護助手だった西山さんが、チューブが外れれば鳴るはずのアラームに気づかず、異変を見逃した過失の可能性を疑った。

 「アラームは鳴っていたはずだ」。事件から1年が過ぎようとしていた04年5月、西山さんは任意の取り調べで繰り返し刑事に問われた。他の看護師同様「鳴っていなかった」と答えていたが、刑事に大声を出されたり、いすを蹴られたりする。怖くなり、「鳴っていた」と認めた。

 途端に刑事は優しくなった。コミュニケーションが苦手で、成績優秀な兄への引け目があった自分の身の上話も親身に聞いてくれた。「この人(刑事)は、私のことを分かってくれる」。うれしさから、次第に好意を抱くようになった。

 取り調べは続く。アラームが鳴ったのなら、呼吸器のチューブは外れていたのではないか、と詳しい状況の説明を求められた。「(アラームを止める)消音ボタンを押すときに外れたと思う」「確認しなかった」「布団をかけたら外れた気がした」。刑事の気を引くため、つじつまを合わせようと説明を重ねた。そして供述は「自分がチューブを外した」に行き着く。容疑が過失致死から殺人に変わった潮目だった。

 逮捕後に弁護士のアドバイスで否認を試みると、別室に連れて行かれた。別の刑事が「両親は警察を信用してるのに、なんであんたは信用しないんや」と怒声を浴びせた。謝って、否認を撤回した。若い刑事は「執行猶予もある。任せておけば悪いようにしない」と素直に認めるよう諭した。「好きだったし、言うことを聞いておけば大丈夫」と従った。

 「この場面はこうだったんじゃないか」「そうかもしれない」。刑事との特殊な信頼関係の中で、共同作業のように供述調書がつくられていった。身の上話で聞いてもらった職場への不満が、いつしか犯行動機とされていた。

 「西山さんの供述は、犯人の可能性を考慮する余地がないほど変遷している」。服役中の10年に行った最初の再審請求に先立ち、弁護側の依頼で西山さんの性格や供述を鑑定した大谷大の脇中洋教授(法心理学)はそう分析する。鑑定は、西山さんのコミュニケーションの特徴として、かなり高い迎合性と、葛藤状況で自暴自棄になる傾向を指摘。犯行の自白は真の体験記憶に基づかない虚偽供述だと結論づけた。

 逮捕されても「こんな大ごとになると思わなかった」という西山さん。「裁判で話せば分かってもらえる」。その期待は、裏切られることになる。

 ◇

 大阪高裁は20日、男性患者の人工呼吸器を外したとして殺人罪で服役した西山さんが求めていた再審の開始を認める決定をした。決定は、患者が病死した可能性を指摘。弁護団も事件はなかったとして「空中の楼閣」と批判した。西山さんはなぜ「自白」し、裁判所はどのようにして有罪判決を下したのか。西山さんへの取材や裁判資料を基に経緯を検証する。

【 2017年12月25日 17時00分 】

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