一日一書




 三蹟のひとり藤原佐理の恩命帖の「失」。数通残る手紙の中でこれが出色かつ日本手紙史上の逸品でもある。
 和歌を書くが如く一筆で書き進んでいるが、上の「落」字を書ききった後、やや間があり、転調の後「失」を書いたことが連綿の姿から覗(うかが)える。佐理の思考の逡巡(しゅんじゅん)が、紙の上を走る筆尖の姿と共に千年以上を隔て、甦(よみがえ)る。

(解説 石川九楊)


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