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ネット投稿の誹謗中傷 人権侵害、連鎖断ち切れ

報道部 片村有宏
武紀さんの遺影に向かう明美さん。23歳の誕生日を迎えるはずだった武紀さんを祝い、友人からは多くのメッセージが寄せられた。
武紀さんの遺影に向かう明美さん。23歳の誕生日を迎えるはずだった武紀さんを祝い、友人からは多くのメッセージが寄せられた。

 インターネット上で犯罪被害者に対する誹謗(ひぼう)中傷がやまない。短絡的な思い込みや事実誤認による一方的な投稿は、被害者や遺族を二重に苦しめている。悪質な投稿の削除依頼は、本人負担となっており、専門家は「発信者情報を開示請求し、警察や弁護士に相談するしかない」とする。繰り返される人権侵害の連鎖を絶たなければならない。

 昨年12月、京都市中京区の繁華街・木屋町の路上で、大津市の大学生大平武紀さん=当時(22)=が、面識のない長岡京市のとび職島ア翼被告(22)=傷害致死罪で一審有罪判決=に殴られ、くも膜下出血で死亡した。

 「不良グループ同士のけんか」「たまたま被害者が死んだだけ」。大平さんの死後、ネットの掲示板には匿名の投稿者による悪質な書き込みが相次ぎ、人格を否定するような言葉が連なった。大平さんの父邦彦さん(52)は「臆測でいろいろと書かれ、文字の暴力だ。残り少ない大学生活を楽しんでいただけだったのに…」とつぶやいた。希望した建築関係の会社に就職が決まり、東京五輪の需要を見込んで張り切っていたという。

 京都地裁は5日の判決で、「被害者は暴力を振るう素振りを一切していない。被告の暴力は短絡的で正当化できない」と指弾した。ネットの投稿と異なり、一方的な暴力だったことが明らかになった。

 法務省によると、ネット上の書き込みで人権侵害を受けたとする昨年の被害申告受理件数は1736件で、年々増加している。ただ、誹謗中傷にさらされた被害者らの名誉回復は限定的だ。

 明らかな人権侵害は法務局が調査し削除要請する場合もあるが、掲示板やサイト管理者が削除に応じる基準に法的な定めはなく、各管理者に委ねられている。甲南大の園田寿教授(刑事法)は「表現の自由があり、新たな法規制も難しい」と説明する。

 ただ、無責任な投稿が放置されている訳ではない。2012年、児童ら10人が死傷した亀岡市の集団登校事故では、遺族を中傷する投稿をしたとして、福島県の高校生が名誉毀損容疑で書類送検された。園田教授は「ネットは匿名と誤解されているが、発信元は特定できる。悪質な書き込みは犯罪だと認識することが大事」と話す。

 6月28日は、大平さんが迎えるはずだった23回目の誕生日。高校時代にバスケット部を創部した大平さん。友人から遺族に多くのメッセージや思い出の写真が届いた。「誤解されたまま事件が風化するのはあまりに悲しい。せめてけんかではなかったと伝えたい」。母明美さん(48)は息子の遺影に手を合わせた。

 臆測の投稿は遺族ら関係者を深く傷つける。匿名だからといって許されはしない。

[京都新聞 2016年7月13日掲載]

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