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涅槃図になぜ猫いない?

西寿寺に伝わる涅槃図。今年も17~23日に本堂に掛ける(京都市右京区)
西寿寺に伝わる涅槃図。今年も17~23日に本堂に掛ける(京都市右京区)

 新暦で釈迦(しゃか)が亡くなった日に当たるのが3月15日ごろ。京都市内では、威徳をしのぶ涅槃会(ねはんえ)を営み、釈迦の入滅の様子を描いた涅槃図(ねはんず)を公開する寺院も多い。あらゆる生きものが嘆き悲しむ場面で、描かれなかった動物が「猫」。この謎をひもときながら、仏教絵画が専門で京都国立博物館保存修理指導室長の大原嘉豊さんに、涅槃図の楽しみ方を聞いた。

 通常、画面に存在しない猫。だが、京都市内の寺院には、猫が描かれた涅槃図がいくつかある。

 右京区の西寿寺の涅槃図は縦約5メートル、横約3メートル。裏書きから、江戸初期の奉納とみられる。毎年3月の彼岸に本堂に掛けるが、今年2月、村井定心住職(59)が、初めて猫がいることに気付いたという。

 なぜ猫が珍しいのだろう。「釈迦の使いだったネズミの天敵だから」「身繕いにかまけて入滅に間に合わなかった」など描かれなかった理由は諸説ある。だが、大原さんは、「猫のルーツは中東とされ、お釈迦さまの時代にインドにいなかったから」と説明する。

 国内の文献で猫が確認されるのが平安時代の初期で、鎌倉時代になると猫のいる涅槃図が出てくるという。「街中に猫が増えてきて、『涅槃図にいないのはかわいそう』となったのではないか。後でもっともらしい伝説が付け加えられたのでしょう」と推察する。

 涅槃図には、ぶら下がった赤い袋もある。猫が描かれなかった理由の一つに、「木に掛かった薬袋をネズミが取りに行ったが、猫に邪魔されたために、釈迦は薬を飲めずに亡くなった」という説もある。だが、大原さんは、「涅槃図に見られる袋が薬袋というのは間違い。これは、托鉢に使う鉢を包んだもの。『衣鉢を継ぐ』の言葉があるように、悟りを開く人のために残したのです」と教えてくれた。

 大原さんは「動物を見れば絵師の腕が分かる」とも話した。インドや中国を経て日本に入ってきた涅槃図。昔の絵師は、先人の作を模写して絵のパターンを手中に収めたという。こうした事情や、仏画としての約束事もあり、涅槃図は全体として大きな違いが表れにくかったようだ。

 ただ、「絵の脇役ともいえる動物は、絵師のオリジナリティーが出せる。腕の立つ絵師は、ひと味違った動物を描こうとしている」と語る。西寿寺の涅槃図には、猫のほか、スズメのようにインドにはいなかった動物も描かれている。「優れた絵師が手がけた証拠。絵師も腕が鳴ったのでしょう」と分析した。

 他の寺院には、釈迦は内陸部で亡くなったにもかかわらず、海の魚が描かれた涅槃図もあるという。江戸時代に海外から博物学の知識が伝わると、当時の国内では見られなかった動物がリアルに描写されるなど、時代背景も反映されている。

 涅槃図はその大きさでも知られるが、動物は主に下側に描かれている。大原さんは「上ばかり見ていると首が疲れる。下の動物を眺めてみると、楽しいですよ」。

【 2016年03月10日 08時38分 】

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