京都大好きトーク!

第四十九回 世界文化自由都市宣言40周年。京都から、文化の力で平和に貢献!
門川大作京都市長 × 千玄室さん(茶道裏千家15代・前家元) × 井上八千代さん(京舞井上流五世家元)
門川大作京都市長さん・千玄室さん・井上八千代さん 対談写真
門川大作京都市長さん・千玄室さん・井上八千代さん 対談写真
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門川大作京都市長さん・千玄室さん・井上八千代さん 対談写真
門川大作京都市長さん・千玄室さん・井上八千代さん 対談写真
国際交流会館kokoka(京都市左京区)での座談会に出席した皆さん

<プロフィール>
千玄室(せん げんしつ)/1923年京都市生まれ。同志社大経済学部卒業。裏千家15代家元宗室。茶道の普及に尽力する傍ら世界中で茶道を通じた平和活動を展開し、日本・国連親善大使、ユネスコ親善大使なども務める。78年「世界文化自由都市宣言」の起草に関わり、本年の京都市自治記念式典で梅原猛氏と共に世界文化自由都市特別功労賞を受賞。97年文化勲章(茶道界で初)、98年京都市名誉市民ほか受章多数。京都市国際交流協会理事長、京都市生涯学習総合センター所長。
井上八千代(いのうえ やちよ)/1956年京都市生まれ。ノートルダム女学院高卒業。2歳から祖母の四世井上八千代に師事する。4歳で初舞台、13歳で名取となる。75年に八坂女紅場(にょこうば)学園の教師となり、現在まで「都をどり」の指導を続ける。2000年「五世井上八千代」を襲名。13年紫綬褒章受章、15年人間国宝に認定。京都造形芸術大教授や日本舞踊協会常任理事なども務める。本年京都創造者大賞を受賞、また、芸術文化勲章「シュバリエ」(フランス)も受章した。

文化を中心に据えた京都のまちづくり
千 玄室さん門川市長 京都市が1978(昭和53)年に行った「世界文化自由都市宣言」が今年で40周年を迎えます。本日は宣言の起草に関わられた茶道裏千家前家元・千玄室さんと、京舞井上流五世家元・井上八千代さんをお迎えしました。この宣言から国際日本文化研究センター(日文研)や京都ドイツ文化センター(現 ゲーテ・ インスティトゥート・ ヴィラ鴨川)などを誘致、世界歴史都市連盟の発足や国際交流会館(kokoka)の建設と、文化を機軸とした都市づくりを進めてきました。文化庁も間もなく、機能を強化して京都に全面的に移転します。この素晴らしい宣言を再認識し、文化で日本中を元気に、そしてSDGs(国連の持続可能な開発目標)や世界平和にも貢献する節目の年にと考えています。
千さん 当時の舩橋市長が私や哲学者の梅原猛さんを呼ばれ、「経済も大事だが日本はもっと文化を発信していくべき。貴重な文化財を京都だけで抱きかかえていても駄目で、世界に向けた大きな構想を」と話されました。梅原さんらによる草案を基に皆で議論してできたのがこの宣言です。京都という古い都には、単なる遺産でなく生き生きしたものが代々継承されてきました。例えば井上先生なら京舞、私なら茶道と受け継ぐ者はそれを全て身に付けないといけない。一つの文化を身に付けた人間、その受け継がれ方の厳しさの中に育ったいわゆる「文化財」は、世界でもちょっと見られません。そしてそのことを子どもからお年寄りまで学べる場所として京都アスニー(京都市生涯学習総合センター)ができ、宣言の理念を具現化する施設として国際交流会館ができました。50年前、文化庁はフランスの文化省(現文化通信省)をまねて創設。初代長官に作家の今日出海(こんひでみ)さんを据えました。その今長官が「これは京都にしかできないこと」とおっしゃったのを覚えています。文化庁を京都にもってくる話はこの頃からありました。
門川 フランスをモデルに文化庁ができて、それから10年後に世界文化自由都市宣言ができた。それを具現化するためにさまざまな文化施設ができ、事業も始まり、2007年には当時の文化庁長官・河合隼雄先生が中心となって文化庁の関西分室をつくってくださった。そしてついに文化庁の移転も決定。こうした文化の積み重ねが評価され、今年、「日本の都市特性評価」(都市戦略研究所)で京都市は全国1位になりました。
井上さん 本当に大きなことが、長い年月をかけて成し遂げられてきたんですね。冒頭の「都市は、理想を必要とする」という文言が心に響きます。自由と平和の宣言を京都からと考えてくださったことを誇りに思います。これをしっかりと私たちの世代が感じ、若い人につなげていかないと。
門川 最後の「ここに高い理想に向かって進み出ることを静かに決意して、これを誓うものである」は格調高く京都的ですが、知らない方も多いのでもっと大きな声で言おうと思っています(笑)。
 「よその都市はnoisy(騒々しい)で落ち着かない。でも京都に帰るとほっとする。それを『静かに』で表したらどうか」と。京都独特の文化と一体になった、哲学的な静けさです。この宣言に、門川市長がもう一度光を当て、施策を展開しておられることが本当にありがたい。
門川 京都市基本構想の上、最高の都市理念として掲げています。外国の方に伝えても、その内容と格調高い文章に皆本当に感動されるんですよ。

宣言の理念を実践してきたお二人と京都のまち
井上八千代さん門川 宣言には「優れた文化を創造し続ける永久に新しい文化都市でなければならない」とありますが、先代、お父上と親子3代で人間国宝の井上先生が、伝統を守るだけでなく他分野と意欲的にコラボしてこられたのもまさにこのことですね。
井上 千大宗匠のお茶もです。
 積極的に外に出て、京都の文化を知ってもらうことが何より大事なんです。
井上 家業を継いだだけの私ですが、どこにいても、京舞らしい女性の持つ細やかさと強さ、それが育まれた京都の風土を心に持って舞わしていただきたいと思っています。最近行ったパリはカラッとした空気でしたが、それとは対照的に湿り気のある、染み入るような私たちの文化が、先ほどの静かな宣言にもつながるのかなと。山に囲まれて水に恵まれた環境、そこでの人の営みを舞に表せればと思っています。私は戦争を知りませんが、戦地で生きるか死ぬかのはざまで渇望なさった大宗匠の文化に対する思いはとても大きなものだと思います。平和だからこそ舞も見ていただける。それを享受する私たちが、もっと大切にしなければいけませんね。
 戦争は本当に地獄です。世界中で殺し合いをして、軍人だけでなくたくさんの民間人が犠牲になる。こんなことは許されないし、あってはならない。政治も外交も一体にならないと、人類が地球をつぶしてしまいます。数々の内乱を生き抜いた京都の人たちは焼け野原の中、何度も立ち上がった。ですから「静かに」には、歴史的な意味もあります。「平和」と口だけでなく今こそ勇気を持って、文化芸術を用いて本当の和やかな人間の文化的生活をつくり上げたいと思っています。
門川 大宗匠にしか言えない、心に響くお言葉です。その思いから「一盌(いちわん)からピースフルネスを」と、お茶を通じて国内外で献身的に平和・文化活動も続けてこられた。
 はい。そして平安京の復元模型がある京都アスニーでは所長を務めさせていただき、ずいぶん勉強もさせていただきました。京都は、1200年前の都市計画から長い時間をかけて、今受け継ぐ文化全てを生み育てる一つの世界を築き上げてきたわけです。
門川 約200年の京舞井上流、400年以上の茶道、続くことの偉大さを実感しますね。茶道があって千家十職があり、それを自然の材が支える。井上流三世家元が考案された「都をどり」は今や春の風物詩。歴史性、精神性に支えられた全てが京都でつながり、文化の背骨を通しています。大宗匠がある時こうおっしゃった。「文化庁をもってくるのも大事だが、少し前は経済界も政治・行政もリーダーは皆歌を詠み、書をたしなんだ。これこそが大切」と。
 文化都市・京都に生まれ育つ、あるいは移り住む人にはチャンスを逃さないでほしい。歌を詠み、茶を点(た)て、書をたしなみ、舞を舞う。そういう最高の教養を身に付けた人が、京都を世界に紹介する一つの入り口になります。
井上 そうなるとありがたいですね。文化庁が来てもこれまでどおり京都を皆さんに正しく知っていただき、京都を守り育てていこうという気持ちを持っていただけるように、それにお応えできるようにと思います。
門川 今、小中学生が伝統文化に触れる取り組みも進めています。京舞では娘さんの安寿子(やすこ)さんにもご協力いただいています。
井上 お子さんに舞を鑑賞、体験してもらう。自ら動いてみたら、楽しさも分かりますしね。
門川 「京都で生まれ育った子は違うね」とならないと、もったいない。昨年、国内外のフィギュアスケートのトップ選手が来られ、先生の舞を見られて感動されました。まさに「交流のうちに新たな文化を創造する」を実感。
 私も先日ベトナムにお茶室ができたので行ってきました。大使公邸のお茶会には日本の残留兵の子孫も来られ、皆さん日本のお茶に感動して涙をボロボロ流されてね。
井上 それは良かったですね。
門川 京都市とフエ市はパートナーシティでもあります。ベトナムから京都への留学生も増えてきました。衹園祭・太子山の胴掛も、京都の監修の下にベトナムで製作されたりしています。
 織物と陶器があるベトナム。利休の時代には、すでにベトナムの茶碗を使っていたんですよ。両国の文化交流は何百年も続いています。

世界文化自由都市・京都の果たす役割
門川大作京都市長門川 東京オリンピック・パラリンピックやワールドマスターズゲームズ関西も控え、世界文化自由都市・京都の果たす役割はますます大きくなります。
 まず、子どもたちの文化的教養や意識を育てていかないと。祖先が残してきたものを学び、一人でも多くの人に京都の文化を身に付けて海外に宣伝してもらいたい。その役目をこれからの京都人に果たしていただきたいと思います。
井上 やはり子どもたちにいかに学んでもらうか。今の子どもたちは忙しくて舞でもお弟子さんが少なくなっていますが、子どもは体力勝負みたいな厳しいお稽古でもついてきてくれます。小さい間に文化に触れる機会を、皆さんで応援していただき増やしたいですね。
門川 今日は京都につながってきた文化の偉大さを実感しました。今、世界中で環境破壊、宗教や民族の対立、貧困などさまざまな問題がありますが、京都が重んじてきた理念は共生の哲学と自然を大事にすること。それがあらゆる文化の根底にあり、背景には宗教的な情操もある。これを次世代に伝えることがわれわれの責任。お二人に魂を入れていただいた思いです。ありがとうございました。これからもご指導をお願いいたします。


世界文化自由都市宣言

 都市は、理想を必要とする。その理想が世界の現状の正しい認識と自己の伝統の深い省察の上に立ち、市民がその実現に努力するならば、その都市は世界史に大きな役割を果たすであろう。われわれは、ここにわが京都を世界文化自由都市と宣言する。
 世界文化自由都市とは、全世界のひとびとが、人種、宗教、社会体制の相違を超えて、平和のうちに、ここに自由につどい、自由な文化交流を行う都市をいうのである。
 京都は、古い文化遺産と美しい自然景観を保持してきた千年の都であるが、今日においては、ただ過去の栄光のみを誇り、孤立して生きるべきではない。広く世界と文化的に交わることによって、優れた文化を創造し続ける永久に新しい文化都市でなければならない。われわれは、京都を世界文化交流の中心にすえるべきである。
 もとより、理想の宣言はやさしく、その実行はむずかしい。われわれ市民は、ここに高い理想に向かって進み出ることを静かに決意して、これを誓うものである。
昭和53年10月15日 京都市

SDGs(国連の持続可能な開発目標)

「誰一人取り残さない」を理念に2030年までに達成することを目指す、人類社会が抱える貧困、人権、環境、平和などの共通の諸課題の解決に向けた17の目標。




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