京都大好きトーク!

第五十回 和食とその背景にある「心」を、京都から世界へ
門川大作京都市長 × 園部晋吾さん(山ばな平八茶屋若主人・京都料理芽生会会長) × 大原千鶴さん(料理研究家)
門川大作京都市長さん・園部晋吾さん・大原千鶴さん 対談写真
門川大作京都市長さん・園部晋吾さん・大原千鶴さん 対談写真
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大原さんのアトリエ(京都市中京区)での座談会に出席した皆さん

<プロフィール>
園部晋吾(そのべ しんご)/1970年に安土桃山時代創業の料理屋「山ばな平八茶屋」(京都市左京区)の長男として生まれる。日本大経済学部卒業後、大阪北浜の料亭「花外楼」で3年間修業。その後「山ばな平八茶屋」に戻り、2010年に代表取締役社長に。伝統の味を守りつつ新たな挑戦を続ける。NPO法人日本料理アカデミー地域食育委員会委員長、京都市教育委員会「日本料理に学ぶ食育カリキュラム推進委員」なども務め、食育活動にも熱心に取り組む。06年度京都府青年優秀技能者奨励賞(明日の名工)受賞。19年1月、若手料理人が集う京都料理芽生会の会長に就任。
大原千鶴(おおはら ちづる)/京都・花背の料理旅館「美山荘」の次女として生まれ、幼少の頃から料理に触れて育つ。現在、料理研究家として雑誌やテレビ、料理教室、講演会などで活躍。現在NHKEテレ「きょうの料理」にレギュラー出演中。NHK BSプレミアム「あてなよる」「京都人の密かな愉(たの)しみ」の番組出演や料理監修も手掛ける。高校生、中学生の2男1女の母でもある。近著「大原千鶴のまいにちのごはん」ほか著書多数。「京都・和食文化推進会議」企画運営会議委員、「お酒の京都」実行委員会委員なども務める。

料理の家の魂を継ぎ、看板を背負う
園部晋吾さん門川市長 2013年のユネスコ(国連教育科学文化機関)無形文化遺産登録以降、国内外でますます関心の高まる「和食」。本日はその発展・普及にご尽力の、山ばな平八茶屋若主人で京都料理芽生会会長も務める園部晋吾さんと料理研究家の大原千鶴さんがゲストです。まずは園部さん、400年余の歴史ある老舗を継がれるまでには、いろいろな思いもあったでしょう。
園部さん はい。幼い頃から「継がないと」とは思っていましたが、大学時代には反発もあり就職活動もしました。ただ無意識のうちに選んでいたのは食品関係や経営コンサルタントなど。いずれ帰ることを意識していたんですね。ある時父親から「継ぐなら料理人じゃないと駄目だ」と言われました。料理の修業は中卒・高卒で始める人も多く、大卒の私はすでに遅い。回り道していると修業ができなくなる。結局、大阪・北浜の「花外楼(かがいろう)」で3年間修業。その後店に帰り、また下働きから始めました。
門川 「美山荘」に生まれた大原さんも、小さい頃から料理に親しんでおられてましたね。
大原さん 夜遅くまで働く大人を待てないので、子どもは自分たちでご飯を作っていたんです。失敗しつつ遊びのような感じで。夕方「虫養いですけど」とおにぎりを作って大人に出すと喜ばれました。褒めてもらうのがうれしくて、20人分のまかないを作ったりしていましたね。
門川 そして料理研究家としての活動は、家庭人として大変な時期に始められたそうですね。
大原 子どもが幼く、主人の母の介護もあって外に働きに行けない。じゃあできることは? と考えて、好きな料理で活動を始めようと。最初はパーティーなどのケータリングで150人分の唐揚げを、子どもを一人は背負い、一人は横に座らせて作っていました。
門川 「ダブルケア」に直面しても諦めず一層挑戦され、今やテレビに本にと大活躍です。
大原 やればやるほど「まだできる!」と人生に対して厚かましくなって(笑)。家庭料理はお料理屋さんの料理と違い、するっと食べられて何となく体が整えばよいと思っています。今は極力、手間と洗い物が少ないシンプルな料理をお伝えしています。自分が忙しい中「どうしたら簡単においしく?」と考えてできたものが、働く女性に役立つかなと。
門川 まさに暮らしから生まれた文化。一方、「お料理屋さん」の園部さんは、名物・麦飯とろろ汁でも“革新”を重ねてこられた。
園部 400年前からある料理ですが、当時とは素材から何から違います。人の味覚も違うので、各当代が自分の要素を入れて味を決め、次へつないできました。私も引き継いだもので納得できたものはそのまま引き継ぎ、納得できなかったものは変えて。だしの引き方やかつお節や昆布、米なども変えました。でも面白いことに、50年ぶりに来たというお客さまが「変わらんなここは」と言ってくださるんです。
大原 守るところは守りながら変えていくのが、京都の“革新”。久々によばれに行きたくなりました。
門川 お二人ともご苦労を天命のように受け入れ、人の感動を喜びとして精進しておられる。働く原点を知る思いです。「何のために働くのか」という働きがいについて改めて考えることも、とても大事なことだと思います。

「食育」を京都から広げる
大原千鶴さん門川 14年前に、村田吉弘さん、高橋英一さん、そして園部平八さんはじめ京都の料理人の方々を中心に日本料理アカデミーが立ち上がり、京都で本格的に「食育」の取り組みが始まりました。
園部 「学校の授業に食育を入れたら継続性と広がりが出る」と京都市教育委員会にお願いしました。当時教育長だった門川市長の「面白い、やろう」の一言で動きだしたんですね
門川 手始めに地元でと、園部さんが修学院小学校でだしで炊いた大根と水で炊いた大根を味わい比べる授業をされた。その反省会に園部さんら若手から長老、大学の先生までが集って侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を深夜までしました。こうした取り組みに文科省も注目、今は学習指導案にも入り、全国の食育のモデルに。
園部 当時は「孤食」「味覚障害」などが新聞をにぎわせた頃でした。まずは、だしの原点・昆布とかつお節の味を小学生に知ってもらおうと。
大原 イベントなどと違って、学校なら全員に行き届きます。
園部 興味のある人もない人も、全員に知ってもらいたかったんです。
大原 そこにこだわられたのはさすが。私は娘が幼稚園の時に同級生を家に集めて、ご飯、おみそ汁、卵焼き、野菜料理、イワシの照り焼きなど6回シリーズの料理教室を開いていました。子どもたち自らイワシの頭を落としたりして、みんな喜んでましたね。
門川 今の小学生やこれから生まれる子は平均107歳まで生きるそうですから、料理の力は本当に大切です。楽しんで一緒に作るところから始めてもいいですね。

伝統産業と環境にやさしい「和食」
門川大作京都市長園部 例えばコーヒーカップにみそ汁を入れたら、味はみそ汁ですがみそ汁らしくない。お椀に入って箸で食べるからこそみそ汁です。食器、空間、全部入っての和食。これからの食育では、そうした文化もひっくるめて広めていけたらと思います。
門川 園部さんらの志を受けて、和食を背景に茶道、生け花などの「生活文化」を全ての子どもたちが学ぶ取り組みを、京都市では新年度から始めます。伝統産業74品目の中で京焼・清水焼、和装産業、漆器なども危機的ですが、全てにつながる和食を振興すれば解決の道も開く。小学校給食では和食を大事にしてきましたが、さらに月1回和食に親しむ「和(なごみ)献立」を実施。米食は週4.25日で農業県以外で最多です。
大原 和食は難しいと思われがちですが、実は一番簡単で、おだしさえあれば何とでもなる。ただ、きちんとしたおだしに欠かせない北海道利尻の昆布職人さんや鹿児島枕崎のかつお節屋さんが高齢化で続けられなくなったらと心配です。京都の伝統工芸も同じ。うそのないものを作る職人さんの仕事の価値を認める社会になって、文化全体の底上げができたらすてきだなと思います。
門川 「いただきます」は、自然とあらゆる人の努力で得られた恵みへの感謝。京都市では、京都議定書誕生を機に日本初の地球温暖化対策条例ができ、改正時に食文化と地球環境についても記しました。今、世界では肉食が増えた結果、大豆のほとんどが家畜の飼料になり、環境負荷も高まっています。大豆がみそ、豆腐などと多彩な食材になる和食は地球の健康にも良い。世界から評価されるゆえんです。

和食を通じて伝える、日本の本質
門川 昨年は京都の料理界から初の文化功労者も輩出(村田吉弘氏)。2021年度には文化庁が機能を強化して京都に全面的に移転します。そんな中、お二人の今後の夢は?
園部 日本料理のうわべだけでなく、裏側にある本質、日本人の感謝の心や他人への配慮・気遣いなど生きる上で大切なことを伝えていきたいですね。
大原 特に京都では、相手をおもんぱかって物事が進んでいく。料理屋さん同士も不思議なほど仲が良く、お互いの厨房(ちゅうぼう)に行って「これ何? どこで仕入れたん」「どこそこや」と教え合う。それが心地よく、京都にいる幸せを感じます。
園部 同業他社の支え合いは家同士のつながりも大きい。「お父さん、おじいさんに世話になったから」と支えられると、私も今度は先輩の息子さんやお孫さんの役に立とうとする。子どもによく言うのですが、気持ちは全部伝わるもの。嫌々だと受け取る方も嫌な感じがする。逆に楽しみながらだと、その楽しい思いも伝わります。人間の食の目的は、生きることと楽しむこと。生きるためだけなら野菜や魚を丸かじりでいいけれど、そうしないのは根底に文化があるから。人と人とをつなぐ「楽しむ食」のウエートを増やしていきたいですね。魚には魚、野菜には野菜、鶏には鶏の味がある。そうした素材の味を表現しやすいのも和食。そしてそれを広げるための人づくりも進めたいですね。
門川 京都の食育指導員は、258人も活動しています。
大原 私は、「料理はきちんと」という思い込みから皆さんを解放したいですね。キュウリに塩を付けるだけでも立派な一品。食が楽しいと生きる気力が湧き、「たくさん作ったし隣の人と食べよ」と地域の輪も、健康の輪も広がる。社会全体が窮屈な今、「食」が許し合える社会づくりに役立てばと思います。
門川 親子以外で共に向き合って食事するのは人間だけだそうですね。他の動物は食料を取られないように隠して食べるけど、輪になって食べる人間はそこで感謝やつながりを学ぶ。その一番の象徴が和食だと思います。今日は健康長寿や「誰一人取り残さない」SDGs(国連の持続可能な開発目標)の理念を含め持続可能な社会へのヒントもたくさんいただきました。京の食文化をさらに発信すべく、これからもよろしくお願いします。




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