京都大好きトーク!

第五十四回 人を引きつけ、新たな文化を育む京都の伝統の奥深さ
門川大作京都市長 × 余貴美子さん(女優) × 増田コ兵衞さん(伏見酒造組合理事長、増田コ兵衞商店14代当主)
門川大作京都市長さん・余貴美子さん・増田コ兵衞さん 対談写真
門川大作京都市長さん・余貴美子さん・増田コ兵衞さん 対談写真
門川大作京都市長さん・余貴美子さん・増田コ兵衞さん 対談写真
門川大作京都市長さん・余貴美子さん・増田コ兵衞さん 対談写真
門川大作京都市長さん・余貴美子さん・増田コ兵衞さん 対談写真
門川大作京都市長さん・余貴美子さん・増田コ兵衞さん 対談写真
増田コ兵衞商店(京都市伏見区)での座談会に出席した皆さん

<プロフィール>
余貴美子(よ きみこ)/1956年横浜市生まれ。劇団活動を経て映画、ドラマへと活動の場を広げる。2008年毎日映画コンクール田中絹代賞受賞、同年「おくりびと」、09年「ディア・ドクター」、12年「あなたへ」で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を3度受賞。NHK大河ドラマ、連続テレビ小説で度々主要な役を務め、テレビドキュメンタリー「京都人の密(ひそ)かな愉(たの)しみ」にも出演。現在NHK「ファミリーヒストリー」の語りを担当。その他、テレビドラマや映画などの多数の出演を控えている。
増田コ兵衞(ますだ とくべえ)/1955年京都市生まれ。1675年創業の伏見では最も古い蔵元の一つ、清酒「月の桂」醸造元の「増田コ兵衞商店」代表取締役社長に1991年就任。日本酒や和食を通じて京都の魅力を世界に発信。「日本酒条例サミットin京都」や日本酒祭りなど京都におけるさまざまなイベントや世界中からの研修旅行、京都を知ってもらうためのツーリズムを招聘(しょうへい)している。日本酒造組合中央会監事、伏見酒造組合理事長、ミス日本酒顧問、京都国際観光大使。

京都の奥深さに魅せられて
余貴美子さん門川市長 本日は女優の余貴美子さん、伏見酒造組合理事長で増田コ兵衞商店14代当主の増田コ兵衞さんをお迎えしました。余さんは横浜のご出身ですが、撮影でよく京都に来られていますね。
余さん 京都は居心地が良く、まるで磁場に吸い寄せられるような感覚があります。それに京都ならではのいろんな薫りに満ちていて、京都で撮影するとその薫りが画面にも表れる気がするんです。また、すてきな喫茶店やバーもある。伝統的なものから新しいものまで質の高い文化が息づく京都に来るのは、いつも楽しみです。
門川 余さんの映画はいろいろ見せていただいています。日本を代表する女優である余さんが、京都をこよなく愛してくださっていることはうれしい限りです。増田さんは歴史ある酒蔵を率いておられます。
増田さん 京都の文化の奥深さは、東京で5年働いて戻ってきてから、より実感できた気がします。学生時代には海外でワイン造りも学びましたが、違う文化に触れることで日本酒のすごさを再認識することができました。
 家業を継ぐ時は悩まれたんですか。
増田 悩みました。男一人なので継がざるを得なかったんですが、京都の歴史の重さと文化の奥深さの中に再び身を置いているうちに、覚悟みたいなものができましたね。
門川 増田さんは日本初の「日本酒乾杯条例」(2013年、議員提案により制定の「清酒の普及の促進に関する条例」)の成立にも大いにご尽力いただきました。今や140を超える自治体で同様の条例が誕生しています。
 乾杯は何度しても良いものですね。私も昔から日本酒が大好きです。
門川 私の父は「お神酒(みき)とは人間が生きる上で大事な三つの『き』、『ありがたき、もったいなき、畏れ多き』という気持ちを神様にお供えするお酒だ。この三つの心を大事にし、神仏に供えたお神酒のお下がりを、直会(なおらい)として感謝していただくんだ」と話していました。
増田 京都が乾杯条例第一号で、全国では日本酒だけでなく焼酎やワインで乾杯や、北海道では「牛乳で乾杯」もあります。
門川 これらの条例に共通するのは「地域に伝わるものづくり、歴史・文化を再認識しよう」という考えですね。京都でも市民の皆さまと共に、日本酒はもとより、京都に息づくあらゆる伝統産業・文化、そしてその根底にある心を大切にしていこうと取り組んでいます。
 感謝の気持ちを忘れず物を大事に使い続け、食材は最後までいただく。京都ではそういう大切なことに気付かせていただける気がします。

伝統と創造の歴史をもつ、京都の三つの「育」
増田コ兵衞さん門川 京都では千年続くものづくりの伝統からイノベーションを起こし、世界的企業も生まれています。例えば、お酒造りの技術からお薬やバイオテクノロジーが生まれ、印刷や染の技法が半導体製造技術に発展しているんです。近年では開発やデザインの拠点を京都に置く企業も増えています。
増田 京都人には、古いものの中に隠れ潜んでいる新しいものを発見する力があると思います。
 私もそう思います。そして皆さんが懸命にまちを盛り立てておられます。市長も毎日着物を着て、その良さを自ら発信されていますね。私も着物が大好きです。洋服と違って着物は布が体に合わせてくれるので楽ですし、立てば背中の縫い目の線がスーッと一本通るので、姿勢を正したい時にも向いています。着物をほどいたあとは、はたきや座布団、雑巾にもできる。素晴らしい文化だと思います。
門川 「襟を正す」「袖振り合うも多生の縁」など、含蓄ある言葉も数多くあります。
 「折り目正しく」も、着物を畳む時に教わりました。
門川 そうした「服育」、最近取り組みが広がってきた「食育」、そして「住育」。仏壇や神棚などに手を合わせ、床の間などに季節の花を生けるといった日本の生活文化を、改めて大切にしなければとの声も高まってきていますね。

水の都で育まれた料理と酒、酌み交わす文化
門川大作京都市長門川 京都国際観光大使も務めていただいている増田さんから、地元・伏見の魅力もぜひ。
増田 伏見は、かつて「伏水」と書いたほど水が良い土地で、御香宮神社の御香水は名水百選にも選ばれている他、2キロ四方に現在、造り酒屋が24蔵あります。江戸時代は草津湊が置かれ、水運の要でもありました。
門川 旬より少し早い食材を「走り」といいますが、これは諸国の産物が淀川から伏見の横大路に荷揚げされ、そこから錦市場まで走って運ばれたことから生まれた言葉との説があります。
 勉強になります。
門川 そんな豊かな歴史と文化が息づく伏見ですが、京都に滞在される方のうち伏見に泊まられる方はあまり多くありません。1400年の歴史を誇る山科なども同様です。京都にお越しの方々には、こうした隠れた魅力にもぜひ触れていただきたいと思っています。
増田 京料理も、伏見・京都のお酒と一緒に育ってきました。他の地方には単体でインパクトのあるお酒も多いですが、京都は常に料理との相性や季節感を考慮しお酒自体に強い個性を求め過ぎない。主張しすぎず、ちょっと引く奥ゆかしさ。その中においしさを見つけるお酒ですね。
 つつましいんですね。京都はおいしいものがいっぱいで、京都に来るとそればかり考えています(笑)。食べることは「生」を実感することであり、幸せそのものですが、特に京都では手間暇を惜しまず大事にされていると感じます。
門川 料理もお酒も、どんどん進化しています。お酒では、この頃はお米をあまり研がず、お米の味わいをより感じるものも増えてきたように思います。多彩なお酒がある今、「食前にはこれ。魚や油っこいものならこっち」とさまざまな飲み方ができることも楽しさの一つですね。また、西洋では各人がマイペースで飲むのに対し、日本酒は「お流れをいただきます」などと言って、相手と交わりながら飲みますね。
増田 一つの杯で酒を酌み交わすための「杯洗」も、コミュニケーションの象徴です。人生3万日生きると82歳と1カ月。20歳から夕食にお酒を飲むと2万2千回しかないと思ってしまいます。誰と飲むかは大事ですね。
門川 「日本酒乾杯条例」に賛同いただいた歌舞伎俳優の中村鴈治郎さんも「小さなおちょこととっくりで酌みつ酌まれつするうち、人が近づく。若い人のお酒離れが進む今こそ大事」とおっしゃっていました。世界的な和食・日本酒ブームですし、盛り上げていきたいです。

世界と未来へつなぎたい、京都の文化
門川 お父様が台湾ご出身でご縁が深い余さん、台湾のお酒文化は日本と比べていかがですか。
 お酒を飲む時の人との交わり方は日本とよく似ていて、歓迎の後みんなで乾杯し、一つの杯を回し飲んだり、料理が大皿だったり。西洋の個の様式とは異なる、東洋の文化の共通性を感じます。
門川 熊本地震の後には台湾の台南市長が復興支援のため、熊本に多くの市民と共に来てくださったと伺いました。
 台湾の人たちは日本が大好き。台南では日本統治下の頃の建物がリノベーションされ、おいしい日本酒も出てきます。
門川 台湾南部の大都市・高雄と京都との交流も深まっているんですよ。高雄は以前は打狗(ターカウ)という地名だったのですが、99年前京都の「高雄」の漢字が当てられ、それをご縁に交流が始まりました。100周年に向け、台湾のメトロと京都の嵐電が協定を結ばれて「高雄国際マラソン」と京都の「高雄マウンテンマラソン」の相互交流も深まっており、うれしい限りです。これからも市民ぐるみで交流を進め、友好の輪を大きく広げていきます。最後にこの京都の文化を未来に引き継ぐために大切なことやご自身の抱負をお聞かせください。
増田 京都人はしぶちんで新しいものが好き、古い風習や食文化を知ってるからより深く受け入れる力があると思います。表面を楽しむだけでなく、先人たちの知恵や技の精神文化を次の世代に楽しく伝えていきたいですね。
 私は古典芸能を学んでいますが、お能や三味線のお稽古などを通じて知識が増えると、自分自身が豊かで幸せな気持ちになります。俳優として、増田さんのようにはやりものでない“老舗”になりたい。そのために歴史あるものを学ぶことは、とても大切だと思っています。
門川 存在感ある演技は自分を磨き続けられているからこそだと思います。ともに軸足を歴史・文化に置いて世界に視野を広げ、未来を見つめておられるお二人。2021年度中に文化庁がやってくる京都のまちも、京都ならではの文化を創造・発信し、世界とつながり未来に生かしてまいります。ありがとうございました。


読者アンケートはこちらから。抽選でプレゼントが当たります。




第54回対談を印刷する

京都新聞COM 〒604-8567京都市中京区烏丸通夷川上ル