小柄ながら大きくて優しい背中だったに違いない。混乱の続くアフガニスタンの復興に半生をささげた中村哲医師の生きざまを改めて思った▼突然の凶弾に無言の帰郷となった告別式で、長男の健さんが最初に口にしたのは、一緒に命を落とした警備員らへの哀悼だった。治安悪化に国際援助が細る中、中村さんは「守ってくれているのもアフガン人」と、常に住民と共にいた▼日本では、心血を注いだ支援先で襲われた衝撃が大きいが、アフガンでは毎年幾千の住民が戦闘やテロの犠牲となり、飢えや感染病に倒れている。理不尽な死が日常にある現実に目を向けてほしかったのだろう▼その根を断つべく、中村さんが挑んできたのが荒廃した農地の復活だ。長い内戦に増して、干ばつによる砂漠化が人々の生活基盤を破壊しているとし、その再建とともに地球温暖化対策が急務と訴えてきた▼だが、主軸の対策枠組み「パリ協定」の本格実施を目前にしても、その危機感を国際社会は共有できずにいる。自らも異常気象の過酷さを実感する日本が、足を引っ張る存在と見られつつある▼告別式の結びに健さんは、父親から学んだのは「人の思いを大切にし、本当に必要なことを見極めて一生懸命すること」と話した。何より行動で示した背中を思い起こしたい。