この2年間でネット上に現れた差別書き込みのコラージュ

この2年間でネット上に現れた差別書き込みのコラージュ

 「韓国の強姦(ごうかん)と売春の文化は世界中で既に有名ですね」。今年8月、奈良県安堵町の男性町議(61)が、複数の差別的な文言をSNSに書き込んだ。町議会は11月、「公人としての自覚がない」として辞職勧告決議を可決した。

 町議によると、3年ほど前にSNSを始め、「生活保護受給者のうち在日コリアンが40万人超」などという情報に触れた。それは事実無根なのに、町議は「日本の危機」との意識を強めていった。「私は差別主義者ではなく愛国者で、善良な人柄だと思う」。ヘイトスピーチ(憎悪表現)を繰り返す団体と接点はなく、2009年に京都朝鮮第一初級学校(京都市南区)で起きた襲撃事件は、存在自体を知らなかった。

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 「日本からたたき出せ」「スパイの子ども」「端の方を歩いていたらいい」-。襲撃事件のヘイトスピーチが、まき散らした差別の種。インターネットを介して拡散し、10年の時を経て、私たちの社会の至る所で発芽している。

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 ネット空間の人種差別に詳しい高史明(たか・ふみあき)・神奈川大非常勤講師は「2000年代初頭からネット上では韓国や北朝鮮への差別が流行し始め、差別を抑え込む規範が失われた」と分析する。高講師の研究では、12~13年に収集した、「韓国人」「朝鮮人」などのキーワードを含むツイート約11万件のうち、コリアンを否定的に評価する内容が7割を占めた。

 朝鮮学校襲撃事件に象徴されるヘイトスピーチには現代の人種差別の特徴が現れているという。「蔑視や敵意という古典的差別に、『日本人の利益が侵害されている』との主張を混ぜ合わせて、社会が受け入れやすい装いにして放つ。その結果、在日コリアンへの忌避感を強め、差別を支える層を広げるのに大きな影響があった」

 ネット発の差別に引きずられるように、リアルの社会も、差別的言動を許容する方向へ変容する。

 17年、あるブログが、朝鮮学校への補助金停止に反対する弁護士会の声明を「確信的犯罪行為」などとして、弁護士に対する懲戒請求を呼び掛け、ネットユーザーが動いた。京都弁護士会所属のある弁護士には、約1100件の懲戒請求が届いた。滋賀弁護士会を含めて各地で大量懲戒請求が相次ぎ、日弁連によると、同種の請求件数は全国で約13万件に達した。

 京都新聞社は、京都府と滋賀県に住む請求者を絞り込み、7人に対面や電話で取材を申し込んだ。ほとんどが拒否する中、請求者とみられる女性=山科区=の夫が取材に応じた。

 夫によると、女性は50代の専業主婦。育児が一段落した約10年前からネットにはまった。政治的なサイトを愛読し、「北朝鮮や韓国への物言いが過激になってきた」という。朝鮮学校への財政支援について、夫は「外されて当たり前。厚かましいと嫁さんと話している」と主張した。

■「小さな差別は土台。頂点には虐殺も」

 「『日本からたたき出せ』との罵声を批判しきれない社会を支えるのは、日常の小さな差別や偏見ではないか」。かつて、ネット上で差別にさらされた立命館大准教授の在日コリアン3世、金友子(キム・ウヂャ)さん(42)は指摘する。

 13年12月、金さんが同大学で担当していた東アジア史の講義中、朝鮮学校無償化を訴える学生団体が応援メッセージを募るカードを配った。14年1月、受講生とみられる人物が「こんなカードを書かせるから立命は糞」とツイート。ネット上で金さんを「半島へ帰れ」などと中傷する投稿が相次ぎ、大学に抗議が殺到した。

 金さんは、少数派への中傷が簡単に社会へ拡散する背景に、身近にうっすら漂う差別構造があると考える。一例に、在日コリアンだと友人に告白した際、「日本人と変わらないよ、大丈夫」と言われた自身の経験を挙げた。友人の返答に悪意は感じなかったが、後に「日本人と違う存在はだめ」という無意識の偏見が潜んでいたことに気づいた。

 11月下旬、金さんは亀岡高(京都府亀岡市)であった教員向けの人権研修で、こうした経験を紹介し「小さなことかもしれないが、放置すると特定の集団への貶めが社会に浸透する。気づいたときに一つ一つ指摘しないと」と呼び掛けた。

 そして、「ヘイトのピラミッド」という概念を示し、警鐘を鳴らした。「小さな差別や偏見は土台。上の方にヘイトスピーチ、頂点にはジェノサイド(集団虐殺)があるのではないでしょうか」

【朝鮮学校襲撃事件】2009年12月4日、京都朝鮮第一初級学校に「在日特権を許さない市民の会(在特会)」メンバーら11人が押しかけ、約50分間にわたってヘイトスピーチを行った。うち4人は威力業務妨害罪などで有罪が確定。後日、同校周辺であった2度のデモ行進でも差別発言が乱発された。民事裁判で在特会側は、同校による隣接公園の「不法占拠」への「意見表明」と主張したが、京都地裁判決は「表面的な装い」と退け、人種差別と結論付けた。大阪高裁も地裁の判断を支持し、高額の賠償命令などに加え、民族教育の重要性を積極的に評価した判決が最高裁で確定した。

〈連載「ヘイト追跡 朝鮮学校襲撃事件10年」全4回の3〉

※おことわり 連載記事には、在日コリアンを対象にした民族差別に該当する文言が複数登場します。京都新聞社は、差別の実態を共有するため文言をそのまま報道します。あらゆる憎悪犯罪や憎悪表現を許さない社会をつくる一助とする目的です。