師走の風物詩、ベートーベンの「第九」。プロに交じって市民が参加する演奏会も多い。合唱という重要なパートを市民が担う理由は何だろう▼「第九は歌った方が楽しいよ」。妻に誘われ市民合唱団に参加し、先日京都コンサートホールのステージに立った。「第九を歌いたい」一心で集った、年齢も性別も人生も違う人々と3カ月間練習を重ねた▼合唱は一人では歌えない。声と気持ちを周囲と合わせるのが難しい。「フロイデ(歓喜)」に始まる大合唱はこう続く。「あなたの魔法は再び結び合わせる/時流が厳しく切り離したものを/すべての人々は兄弟となる」▼シラーの原詩「歓喜に寄す」はフランス革命の時代、民衆の間で盛んに歌われたという。「抱き合おう幾百万の人々よ」などの呼びかけは、区別なく肩を組んで歌い合うイメージが似合う▼ベルリンの壁が崩壊した30年前、米国の指揮者バーンスタインは「歓喜」を「自由」に替えて歌わせた。融和を象徴し欧州連合(EU)の歌でもある第九は、世界に排外主義が横行する今、新たな役割が期待される▼「あなたの魔法は再び結び合わせる」。心の垣根を取り払う魔法は人々の中にある、そんなメッセージを市民が市民に向け歌う。1年を締めくくるに当たり実に意義深いことではないか。