京都市伏見区の「京都アニメーション」第1スタジオの放火殺人事件で、建物から脱出した37人の避難行動の全容が、市消防局による聞き取り調査で明らかになった。容疑者におびえてトイレに逃げ込んだことが奏功したり、避難開始が遅れたことが結果的に脱出につながった人もいた。煙やガスは短時間で屋内に充満したとみられ、瞬時の判断や偶然が生死を分けていた。

 社員の最初の脱出行動は出火の数秒後。容疑者が侵入した玄関から、1階にいた2人が逃げ出した。総務省消防庁の火災シミュレーションによると、出火10秒後には吹き抜けのらせん階段から濃い煙が3階まで上昇していた。1階にいた別の3人は容疑者への恐怖心から女子トイレに逃げ込んでドアを閉めたことで、結果的に煙や炎に巻き込まれるのを免れた。トイレの窓には格子があったが、屋外の人が格子を外してくれたため3人は逃げ出すことができた。
 出火の約1分半後、2階のベランダから社員が次々と飛び降り始めた。火災シミュレーションによると、出火の1分後には2階フロアに高濃度の煙と高温の燃焼ガスが充満していた。
 ベランダからの脱出者は、2階にいた20人と、異変に気付いてすぐに3階から2階に下りた5人の計25人。ベランダの窓が早くに開放されていたことが奏功した。23人が飛び降り、2人はベランダに架けられたはしごを使い脱出した。
 3階にいた1人は2階の窓から飛び降りている。この人はいったん2階に下りた後、さらに1階に下りようとしたが、煙に行く手を阻まれて断念。2階に戻ったが、ベランダに多くの人がいるのを見て、即座に建物の北側にある窓から飛び降り、一命を取り留めた。
 出火時に2階にいてベランダから脱出した男性は京都新聞社の取材に「(ベランダから飛び降りるのを)ちゅうちょする人もいた。避難訓練では屋内階段の使用を想定していたが、煙ですぐに真っ暗になった。訓練の避難経路は全く役に立たなかった」と話した。
 最も犠牲者が集中したのは、塔屋の屋上扉に続く階段付近。扉は施錠されていなかったが、屋上に脱出しようとしたとみられる男女20人が折り重なるように亡くなっていた。
 この階段のすぐ近くにある3階の窓から避難した人が1人いた。この人は20人の動きに加わろうとしたが、避難開始が遅く、煙で呼吸ができずに断念。息をしたいとの一心で階段の近くにある窓を開けたことで、偶然、建物に架けられていたはしごを見つけ、つたい下りた。全員の避難が終了したのは、出火から約7分後だった。
 出火当時在席したフロア別の脱出者は、1階が10人、2階が20人、3階が7人。屋内に取り残された33人の死亡が発生当日に確認された。1階から屋外に避難できた3人も後日、入院先の病院などで亡くなった。
 市消防局は分析結果を基に、放火など特殊な火災時の避難行動に関する指針を今後策定する。