舞台は恩人と守護者が支配する「単一国」。空には監視装置付きの飛行機が飛び、人々は政府の定めた時間表に従って暮らし、性生活まで当局の管理下に置かれている▼旧ソ連の作家ザミャーチンは「われら」の中でプライバシーなき未来の暗黒郷を描いた。その空想世界がもはや絵空事でなくなったと思えるのが、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の報告だ▼中国当局の内部文書によると、新疆ウイグル自治区で人工知能(AI)などを使った大規模監視システムを構築し、少数民族ウイグル族らの恣意(しい)的拘束や施設への大量収容を行っていたという▼全地区に張り巡らされた顔認証付き監視カメラの映像や携帯電話の中身、血液型を含む生体データなどあらゆる個人情報を解析し「未来のテロリスト」を抽出する。そんなやり方だ▼「でっちあげ」と中国政府は反論するが、文書は複数の専門家が本物と認める。監視技術は60カ国以上に輸出され、日本も含まれていたという調査結果もある。一体どんな使い方をされているのだろう▼犯罪捜査に役立っても使い方次第で深刻な人権侵害に結びつく技術だ。米国などでは顔認証を巡る訴訟も起きている。「われら」執筆から1世紀。監視社会を監視する力はあるかと、ザミャーチンなら言いそうだ。