ウクライナを巡るトランプ米大統領の疑惑で、米議会下院が、トランプ氏を弾劾訴追した。

 個人的な政治利益のために大統領権限を乱用し、下院の調査に応じないよう政府職員に指示して下院の権限を妨害したとしている。

 大統領の弾劾は過去に2例しかない。トランプ氏は米政治史上で数少ない不名誉を背負い込んだ。

 1月上旬にも始まる弾劾裁判の舞台となる上院は与党共和党が多数を占めており、トランプ氏は無罪となる可能性が濃厚だ。

 しかし、これまでの弾劾調査では疑惑をいっそう深めるような関係者の発言が次々と出てきた。

 弾劾裁判でトランプ氏への不信がさらに高まれば、来年11月の大統領選にも影響しよう。

 野党民主党が多数の下院で可決された訴追決議によると、トランプ氏は、ウクライナへの軍事支援やホワイトハウスでの首脳会談を条件に、政敵の民主党バイデン前副大統領に関する捜査を発表するよう圧力をかけたとされる。

 この問題では、下院委員会の公聴会で、現・元政府高官らが疑惑を裏付けるような証言を相次いで行った。事実であれば、国家の安全保障を無視して権限を振るい、外交を私物化したことになる。米国の民主主義を揺るがす事態だ。

 大統領の弾劾訴追は1868年のジョンソン、1998年のクリントン両氏(ともに上院で無罪)に次ぐ。74年には訴追と有罪・罷免が不可避となったニクソン氏が下院採決前に辞任した。

 ニクソン氏は議会の調査には一定の協力をしたという。だが、トランプ氏は疑惑を一貫して否定し続けている。弾劾裁判でも真っ向から対決することになりそうだ。

 ただ民主党にとっても、訴追は両刃(もろは)の剣になりうる。有力な大統領候補であるバイデン氏一家のウクライナへの関わりも焦点化しかねないためだ。そうした懸念を承知で、賭けに出たのだろう。

 弾劾を巡る調査では1日に14時間に及ぶ委員会審議を行うなど、共和、民主両党とも大統領選を意識した攻防を繰り広げた。

 世論も大きく割れている。各種の世論調査では、民主党支持層の8~9割が弾劾訴追・罷免に賛成しているが、共和党支持層は同じ割合が反対を表明している。

 疑惑を巡り、政治の分断がいっそう浮き彫りになっている。

 弾劾裁判が訴追内容の審理でなく、大統領への支持・不支持を巡る政争の場になるのなら、疑惑の解明は置き去りにされかねない。