飾らない言葉に背中を押された人も多いだろう。150万部超の売れ行きで今年のベストセラーになった本「一切なりゆき」。著者は女優の故樹木希林さんである▼<不自由なものを受け入れその枠の中に自分を入れる>。「全身がん」と公表し、欲望を捨てたその生き方の美しさは共感を呼んだ▼亡き人の言葉にはふと立ち止まらせる力がある。1月に亡くなった哲学者の梅原猛さん。壮大な人類哲学を考える視点から世の風潮を戒めた。<今の日本は言葉の権威が失われ、政治の世界にも詭弁(きべん)がまかり通っている>▼梅原さんと親しかった文学研究者ドナルド・キーンさんは、日本文学を貫く美意識を改めて教えてくれた。<季節の移り変わりや自然の美への表現の豊かさが日本語の本質>と▼人道支援に尽くした2人も忘れられない。国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子さんは、生存や尊厳を守る「人間の安全保障」を訴えた。<生きていさえすれば難民には次のチャンスが与えられる>。かんがい事業に取り組み、凶弾に倒れた医師中村哲さんは論語の一節から<恕(じょ)>、思いやりを表す語を残した▼今年もあと1週間余りになった。<去年(こぞ)今年貫く棒の如きもの>高浜虚子。虚子は自らの信念を棒に重ねたともされる。言葉も同じ、時を超え生き続ける。