ブタにワクチンを接種する県職員ら(滋賀県提供)

ブタにワクチンを接種する県職員ら(滋賀県提供)

 農林水産省が、国内の飼育豚や野生イノシシで感染拡大が続く「豚(とん)コレラ(CSF)」の名称を「豚熱(ぶたねつ)」に変更する方針を決めた。今年11月に「古典的な豚の熱病」の略称であるCSFに呼称を変えたばかりだが、防疫策の根拠法である家畜伝染病予防法の改正が困難なため、代わりの病名をつけることにしたという。そもそも豚コレラ自体、つい「ぶた」と訓読みしそうになる。なぜ音読みなのか。調べると、かつては別の菌を「ブタコレラ」と呼んでいたこともあったらしい。専門家に経緯を尋ねた。

 まずは、豚コレラの歴史をさかのぼろう。家畜の衛生対策を研究する農業・食品産業技術総合研究機構の動物衛生研究部門(動衛研)の説明や、北海道大の清水悠紀臣名誉教授が2013年に「動衛研研究報告」第119号で発表した論文「日本における豚コレラの撲滅」を基に、そのルーツをたどってみる。
 豚コレラの初発生は1833年、米国のオハイオ州とされる。動衛研は、豚コレラの呼び方について「この病気は過去に経験のない性質だったため、人のコレラとの関係が疑われ、『hog(ホッグ=家畜の豚) cholera(コレラ)』と呼ばれたことに由来する」と解説する。
 米政府は1884年、農商務省に畜産局を設置。初代局長のサルモンが豚コレラの研究に乗り出し、感染した豚から病因の可能性がある菌を分離した。これが「ブタコレラ菌」だ。ところが、後に、豚コレラの原因は菌でなくウイルスと判明する。ブタコレラ菌にはその後、サルモンにちなんだ属名がつけられた。「サルモネラ」である。
 動衛研は「ブタコレラという名称は現在使用されていない。むしろ、混乱を招くので使用してはいけない。(この菌による)疾病はサルモネラ感染症と呼ぶべきだ」と強調する。ちなみに、サルモネラは人間に感染するが、豚コレラは感染しない。

 一方、清水名誉教授は「豚コレラを『ぶたコレラ』と呼んでいた研究者も一時いた」と振り返る。
 では、なぜ「とん」と読むようになったのか。動衛研は「諸説あり、信ぴょう性は分かりかねる」。清水名誉教授も「詳しいことは分からない」としつつ、「豚コレラはかつて『豚丹毒(とんたんどく)』という感染症と混同されており、そのあたりの経緯が影響した可能性がある。あるいは『とん』の方が言いやすいので、慣用で定着したのかもしれない」と推測する。
 清水名誉教授は、豚コレラの生ワクチン開発に携わった研究者の一人だ。今回の感染拡大を受け、農水省はワクチン接種による防疫策を打ち出した。この方針について、清水名誉教授に尋ねると「それだけでは根本的解決にならない」と指摘。「野生イノシシの感染源を絶つことが必要だ。環境省も含めた省庁横断で対策を総動員しないといけない。ワクチン接種もすべての豚に徹底すべきだ。中途半端だと隠れ感染を見逃し、豚から豚へ感染しかねない」と警鐘を鳴らした。