「人を楽しませる踊りを追究したい」と話す藤本さん(京都市下京区)

「人を楽しませる踊りを追究したい」と話す藤本さん(京都市下京区)

 テンテコテン、テンテコテン、テンテコテンテコテンテコテン。
 軽妙なリズムのお囃子(はやし)に合わせて、ひょっとこが踊る。赤い着物に白いふんどし、豆絞りの手拭いで頰かぶり…。いでたちだけでもう面白い。呉服製造会社で営業を担当する藤本武志さん(39)=京都市山科区=が中腰状態でクイッと首を振り、くねくねと腰を動かすと、観客からどっと笑いが起きた。
 右京区を拠点に活動する「太秦・ひょっとこ踊りの会」で師範を務める。「師範」といっても、ひょっとこ踊りに正式な師範制度はない。熱中ぶりに驚いたメンバーが呼び始め、定着した。
 もちろん、実力は折紙付き。全国から踊り手が集まり技を競う、宮崎県日向市の「日向ひょっとこ夏祭り」で2019年8月、個人戦ひょっとこ部門で初優勝に輝いた。
 16年、会社の同僚の紹介で会の練習を見学した。初めて見るひょっとこ踊り。「やばい。めっちゃかっこいいやん」。ひょうきんな振り付けの面白さはもちろん、踊り手の個性が出ることに驚いた。キレがあるひょっとこ。色っぽいひょっとこ。同じお面でも、一人として同じひょっとこはいない。すぐに入会を決めた。
 大会形式の祭りがあることも、負けじ魂に火を付けた。「絶対、日本一になる」。インターネットの動画を手本に練習に没頭し、約3カ月で会の仲間から「師範」と呼ばれるまでになっていた。
 しかし、教える立場になったことで不安も生まれた。正式に踊りを教わった経験がないことで、自分の踊りに確かな自信が持てない。自問自答を繰り返しながら迎えた18年夏、初めて出た個人戦は決勝戦で敗れた。
 「優勝はできない踊り」だと、祭りの後に掛けられた言葉が胸に刺さった。その後、もがく中で気づいたのは、自分をアピールすることではなく、人を笑わせる喜びだった。
 日常生活で人を笑わせるのは難しい。でも、お面を付ければ―。再び挑んだ19年の決勝戦で優勝を告げられた瞬間、涙があふれた。同時に、伝統芸能の持つ力のすごさを改めて感じた。「もっと追究したい」。ひょっとこは、人生を懸けるものになった。
 京でひょっとこ踊りを浸透させるのが当面の目標。テンテコテンの音色が街に響き渡る日は近い…かもしれない。