やまなか・ゆりこ 1966年生まれ。比較文学比較文化。著書に「アレクサンドロス変相」。実行委員長を務めた特別展の図録「驚異と怪異」が全国カタログ展で経済産業省商務情報政策局長賞。

 国立民族学博物館(みんぱく)の特別展「驚異と怪異―想像界の生きものたち」が11月26日に閉幕した。3カ月間、わが物顔で跋扈(ばっこ)していた霊獣・幻獣・怪獣たちは、収蔵庫や持ち主の元へ帰り、迷宮も解体され、怪しい気配は夢のようにかき消えた。

 人魚、龍、天馬、土蜘蛛(つちぐも)等々、世界中の幻獣たちの霊力のおかげか、77日の開館日数で7万8682人が訪れた。10月の週末に台風で臨時休館日があり、8万人には達しなかったが、交通の便が良いとは言えないみんぱくとしては、まさに驚異的な数字である。人前では「目指せ10万人!」と熱を吐いていたのだが、内心は「6万超えたら上等かな」と思っていたので、実行委員長の私自身も実は狐(きつね)につままれた気分である。

 子連れの家族、デートのカップル、シニアご夫妻など普段より幅広い世代の方々が来てくださったのがうれしかった。物書きや物づくりに携わる人々もこぞって来てくれたようである。なぜ、今、このテーマで幅広い層に反響があったのだろう。

 現代人は完全に驚異や怪異を飼いならしたのだろうか?マックス・ウェーバーが予言したように、世界は完全に「脱魔術化/脱呪術化」し、合理化されてしまったのだろうか?

 特別展では、このような問いを投げかけた。この世のキワにいるかもしれない不思議な獣たちと出会いにきたさまざまな世代の来館者から得た手応えとしては、今こそ「世界の再魔術化」が求められているのではないか?そして博物館が、現代人が失いつつある「参加する意識」のよりどころの一つとなり得るのではないか? ということである。

 「再魔術化」、「参加する意識」は、1981年にアメリカの社会批評家モリス・バーマンが、近代合理主義に代わる世界とのつながり方について書いた著作で唱えた概念である。柴田元幸氏による日本語訳『デカルトからベイトソンへ 世界の再魔術化』(文藝春秋)が、30年ぶりに今夏に復刊になったことも時代のニーズを示唆しているように思う。人々は目に見えず、計り知ることができないものや現象を否定し排除してきた科学的実証主義の限界を感じ、驚異や怪異を世界の一部として受け入れるという選択肢に、可能性を感じるのではないだろうか。

 自然とのつながりや人間同士の関係が希薄になってしまった世界での生きづらさや、高度化してゆくテクノロジーに支配される不安がますます高まっている今、自然と超自然のはざまにいる境界のクリーチャーたちへの畏れや敬いは、単なる迷信やファンタジーでなく、人間が生き残るための「知」となり得るかもしれない。(国立民族学博物館教授)