性暴力被害への意識を変えるきっかけになるだろうか。

 ジャーナリストの伊藤詩織さんが、元TBS記者から性暴力を受けたとして損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は330万円の支払いを命じた。

 判決は「酩酊(めいてい)状態で意識がない伊藤さんに合意がないまま性行為に及んだ」と認定した。実名での被害公表も「公益目的」と認め、元記者が訴えた名誉毀損(きそん)には当たらないとした。

 元記者は控訴する方針で、判決は確定していない。それでも社会的な影響は大きいと専門家は指摘する。

 これまで声を上げにくかった被害者に勇気を与える判決といえるだろう。

 伊藤さんは実名を公表して性暴力問題の深刻さを訴える著書を出版するなどし、性被害を告発する「#MeToo」運動が日本で広がる契機となった。

 判決は国際的にも注目され、各国のメディアが速報した。

 だが性被害者を取り巻く日本の状況は、海外と比べると多くの課題を抱えている。

 法務省が今年実施した調査によると、性的事件の被害に遭った人のうち捜査機関に届け出た割合は14・3%にとどまった。

 顕在化していない性犯罪が相当数あり、警察などが把握しているのは一部に限られていることを改めて示した。

 さらに全国の検察庁が取り扱うレイプ事件のうち、実際に起訴されるのは統計では4割にも満たないという。

 2年前の刑法改正で性犯罪は厳罰化された。だが強制性交罪や強制わいせつ罪などは「暴行」や「脅迫」を伴わなければ成立しない。有罪認定に厳しい条件を課している。

 こうした状況で、被害者が訴えるのをあきらめてしまうケースも多いとみられる。

 今春、性暴力の無罪判決が相次いだ。「被害者が抵抗したくてもできない実態を見ていない」―当事者や支援者から強い批判の声が上がった。

 伊藤さんのケースでも、元記者は刑事手続きでは嫌疑不十分で不起訴となっている。

 二次被害の深刻さも看過できない。伊藤さんはインターネット上で多くの誹謗(ひぼう)中傷に苦しめられた。「あなたに落ち度があった」と女性から責められもしたという。

 英国やドイツなどでは暴行・脅迫要件がなくてもレイプ罪が成立する。スウェーデンでは18年の法改正で、「自発的に参加していない者と性交」した場合に成立すると規定された。

 日本でも「同意なき性暴力は全て処罰の対象にすべき」との声が高まり、無罪判決に抗議する「フラワーデモ」のうねりは全国に広がった。

 「被害者を独りにしてはいけない」という社会の動きが、今回の判決の背景にもあるのだろう。

 「魂の殺人」。レイプなどの性暴力はそう呼ばれる。心身に計り知れないダメージを受けるからだ。

 性犯罪に関する刑法の規定は来年に見直し時期を迎える。重大な人権侵害の被害者を泣き寝入りさせないよう、議論を進めなくてはならない。