ある出来事が巡り巡って思いがけない結果を招く。「風が吹けば桶(おけ)屋がもうかる」のならまだしも、東京で五輪を開けば各地の小学生ががっかり-となるといただけない▼毎夏開催されてきた「交通安全子供自転車全国大会」。昨年は約190人が技能や学科を競ったが、今年は五輪で都内の会場が使えず、審査員の警察官は警備に動員されるとして、中止になった▼京都府代表で16年連続出場を目指していた亀岡市の千代川小では教諭や地域の大人たちが一緒になって練習を後押ししてきただけに失望が広がった。「五輪のためと言われれば仕方がない」▼国を挙げてのスポーツ祭典の陰で、さまざまなイベントの実施や日程に影響が及んでいる一例だ。ささやかでも年一度のチャンスがなくなるのなら、「五輪ファースト」では割り切れない気もする▼前回東京五輪の開会式当日、ドラマの脚本家だった向田邦子さんは父親と言い争いをして実家を飛び出した。猫を連れて不動産屋の車でアパートを探していると、国立競技場の聖火が望めたという(随筆集「眠る盃(さかずき)」)▼日本中が沸いた会場を尻目に、後の人気作家には他に大事なことがあった。自転車の安全な乗り方を鍛えてきた子どもたちにとっては、東京での大会は五輪に劣らない夢舞台だったはずだ。