「私はチョコの作り手の思いや物語を伝える黒子役」と語る宮原さん。世界を旅した経験を経て、板チョコ専門店を開いた(京都市東山区)

「私はチョコの作り手の思いや物語を伝える黒子役」と語る宮原さん。世界を旅した経験を経て、板チョコ専門店を開いた(京都市東山区)

客の好みを聞いて、お薦めのチョコを選び提供する

客の好みを聞いて、お薦めのチョコを選び提供する

 バーカウンターの背後に、絵はがき大の板チョコがずらりと並ぶ。その数約100種類。鮮やかな色使いやしゃれたロゴマークなどをあしらったパッケージが、それぞれに個性を主張する。

 「豆はタンザニア産。羊のミルクを使っていますが、癖はなく食べやすいです」「作ったのは英国のパン屋さん。ざくざくした食感を楽しんで」と宮原利衣さん(29)は話す。
 味わいや作り手など、包み紙の向こう側の「物語」を語り掛ける。ワインのソムリエ的な存在だ。「伝えたいのは、中学の時に感じた驚きなんです」
 中学2年時のバレンタイン。お菓子を手作りしようと、製菓用の「ちょっといい」チョコを取り寄せた。試しに頰張ると、カカオの産地や使用する割合で、個々に印象が全く違った。「苦いのや酸っぱいの、花のような香りを感じるもの…」。変幻自在の奥深さに強い衝撃を受けた。
 お小遣いをもらうたびに製菓用のチョコを買い、味の世界を探った。感動を知ってほしくて、友達にも振る舞った。ただ熱意に反して、「ふーん…」と反応は薄い。「もっと分かりやすく、良さが伝えられたらいいのに」
 転機が訪れたのは、立命館大在学中の23歳。語学留学したカナダの店先で偶然、板チョコに出合う。カカオの輸入から製造まで、こだわって手掛けるメーカーの品だった。
 無機質な袋に入った製菓用に対し、板チョコは趣向を凝らした包装が興味を持つ入り口になる。それぞれ作り手のこだわりがあり、もちろんおいしい。「これならチョコの面白さを伝えられる」
 帰国すると、突き動かされるまま、再び半年ほど海外を旅する。欧州、中南米、中東など30カ国以上。先々で板チョコを買っては口にし、データや感想をメモに記した。試した数は軽く千枚を超えた。
 就職で上京後も、営業などの仕事をこなしつつ、趣味でチョコを追い求めた。「モノが集まる東京なら」と期待したが、多様な味をいつでも楽しめるような場は見当たらない。「なら、自分で店をしたほうが早い」と一歩を踏み出した。
 どこにもない店を開いて1年余り。「世界には食べたことのない板チョコはまだまだある。いい豆が採れるアフリカにも行ってみたい」。尽きぬ探究心に導かれ、旅は続く。

【プロフィル】

 和歌山県田辺市生まれ。立命館宇治高から立命館大を卒業後、リクルートに入社。チョコレート好きが高じて2018年11月、京都市東山区の花街・宮川町の一角に、世界中の板チョコを集めたセレクトショップ兼カフェ「プラスショコラ」を開く。現在、左京区で一人娘の千容(ちよ)ちゃん(4)と暮らす。