これまで、おられなかったのが不思議なくらいである。

 文化庁が、芸能、工芸の各分野で高い技術を有する「人間国宝」(重要無形文化財保持者)の対象に、和食の料理人や日本酒を造る「杜氏(とうじ)」ら、「食」に関わる人々の追加を検討し始めた。

 洗練された食の技術が、文化の域に達しているのは、いうまでもない。食の人間国宝なるものを、ぜひとも早く見たい。

 人間国宝制度は、1950年に制定された文化財保護法に基づいて、歌舞伎や能といった芸能と、陶芸をはじめとする工芸を認定の対象としており、食の分野は含まれていない。

 だが、日本の食は「和食 日本人の伝統的な食文化」として、国連教育科学文化機関(ユネスコ)によって2013年に登録された無形文化遺産である。17年に成立した文化芸術基本法には、「食文化の振興」が、国の取り組むべき施策であると明記された。

 食の分野を人間国宝制度の対象とするための要件が、ようやく整ったといえるだろう。

 文化庁は、食文化を担当する専門部署を新年度に設け、人間国宝にふさわしい人物や、卓越した技術についての実態調査に着手する構えだ。

 その際には、認定の基準づくりも必要となる。多様な食文化において、何を評価するのかは難しい課題であるが、誰もがうなずける答えを用意してほしい。

 文化庁は、東京一極集中を是正する取り組みの一環で、21年度までに京都に移転する予定だ。

 長年の伝統に支えられた「京料理」は、和食文化の中核である。その本拠地で、実態調査や基準づくりを行い、食文化の振興を進めるのなら、誠に意義深い。

 併せて、郷土料理を国の無形文化財に指定することも目指す。素晴らしい食文化は、全国各地にあるはずだ。これに光を当てることも、忘れないでもらいたい。

 食の人間国宝認定には、日本の食文化のブランド力を高め、訪日客の増加と食材の輸出拡大につなげたい、との狙いがあろう。

 それも大事だが、ユネスコの無形文化遺産への登録に向けては、若者たちの「和食離れ」に対する危機感が原動力となった。

 人間国宝の認定者には、国が助成金を交付して、技術の向上や後継者の育成を後押しする。これに加えて、和食の伝統を、日本人が再生する契機となるような活動も期待したい。