19世紀プロイセンの軍人で軍事理論家のクラウゼビッツは「戦争論」の中で、戦争ほど偶然の余地を与えるものはない、と書いている。対ナポレオン戦争に従軍した経験があり、戦争の実相を多面的に分析する目は冷徹だ▼偶然は不確実性を増大させ、指導者には知性に基づく決断が求められる。知性に乏しくても、ためらわず行動はできよう。しかし、とクラウゼビッツは書き留める。<これらの人々は熟慮せずに行動したのであり…疑いもなく自己矛盾に陥る>▼トランプ米大統領の決断はどうだったのか。米紙ニューヨーク・タイムズによると、イラン司令官殺害は「最も極端な選択肢」であり、トランプ氏も認めてはいなかった▼ところが、である。テレビでイラクの米大使館が襲撃されるのを見て激怒、一転して殺害を承認したというのだ。どれだけ熟慮の時間があったのか、戦争への拡大を考えなかったのか▼きのうイランが隣国イラクの米軍基地に報復ミサイルを撃ち込んだ。米国とイランは互いにやられたらやり返すと声高に宣言しており、本格的な戦争への懸念が高まっている。それぞれエスカレートは望んでいまいが、偶然が不確実性を増大させる▼「戦争論」に<戦争は政治の延長>という有名な言葉がある。戦争を止められるのは政治だ。