モニターに映るボールの画像を見つめる次男。実際の調査は、部屋を薄暗くし、間接照明の中で実施された(木津川市木津川台・同志社大赤ちゃん学研究センター)

モニターに映るボールの画像を見つめる次男。実際の調査は、部屋を薄暗くし、間接照明の中で実施された(木津川市木津川台・同志社大赤ちゃん学研究センター)

 「赤ちゃん学」。日本では2001年に学会が設立された学問を研究する施設が、京都府木津川市にある。ホームページを見ると、「赤ちゃん研究員」として、調査に協力する赤ちゃんを募っているという。ちょうど、先月に1歳の誕生日を迎えた次男が該当する研究に妻が応募し、採用された。一体、どんな調査が行われるのだろう。同志社大学研都市キャンパスの「赤ちゃん学研究センター」を、妻や次男と訪れた。 

  「人間の五感は単独で使われず、いろいろな感覚を組み合わせて世界を知っている。今回は、絵から受けるイメージと音を赤ちゃんがどう結びつけているかを調べます」。始めに、研究員で同大学大学院生命医科学研究科の板垣沙知さん(27)が説明した。妻の膝に乗った次男の前には、テレビモニターと、弱い近赤外線を目に照射して視線の動きを調べる計測器がある。

 調査が始まると、大きさの違う二つのボールや、ギザギザや丸みを帯びた抽象的な図形がモニターに映る。同時に、室内には「ア・ア」「イ・イ」といった音声や、高さを変えた電子音などが順に響く。次男が音に合わせてモニターのどこに目を向けたかが調べられた。

 板垣さんによると、それぞれの音には、大人が「大きくて丸みを帯びている」「小さくとがっている」などをイメージする効果があるという。

 約10分間の調査が終わると、次は妻が答える番だ。10ページ以上にわたるアンケート冊子には、次男がどんな単語を理解しているか、うなずきやバイバイの動作をするかなどを問う項目が並ぶ。板垣さんは「言葉と絵のイメージを結びつけるメカニズムが分かれば、言語発達の支援につながる」と研究目的を語る。第二言語を学ぶ方法として生かせるかどうかも研究していくという。

 センター長で小児科医の小西行郎教授(71)は「いま、育児がぶれている。情報が氾濫し、科学的根拠のない情緒的な論が信じられている」と強調する。赤ちゃん学会では、医学のほか、ロボット工学や心理学の研究者らが、お母さんのおなかにいる時も含めた「人の始まり」に多面的に迫る。

 同センターではほかにも、乳児の家庭内事故を防ぐため一般家庭のリビングルームを模した部屋で赤ちゃんがどこを見るかを調査したり、「人見知り」と遺伝子の相関関係を探ったりする研究などに取り組んでいる。

 昨年度には、地元の木津川市と協力し、市立保育所8園に通う0~6歳児522人の睡眠状況を調査し、就寝時間が遅い乳幼児の保護者は、「子どもに落ち着きがない」といった困りごとを感じている傾向がある、との研究結果を導き出した。小西教授は「自治体を巻き込み、睡眠状況改善のプロジェクトを進めたい」と、地域の子育てに生かしていく考えだ。

 子育て世代は、子の健康や育児に常に不安を感じ、もっと、わが子を知りたいと思う。事実、妻が今回の調査を「ママ友」に紹介すると、すぐに興味を持つ人が現れた。小西教授は「自分たちの研究成果を地域にかえし、みんなで育児の問題を考えないといけない時代。科学的な知見を積み重ね、子の健康問題や親の育児不安を取り除いていければ」と語る。