現地情勢のリスクと自衛隊員の安全を本当に熟考したのか。

 中東海域に海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」とP3C哨戒機を派遣する命令を河野太郎防衛相が出した。日本関係船舶の安全確保に向けた情報収集を任務とし、政府が昨年末に閣議決定したものだ。

 だが、年明けから米国とイランが相互に武力を行使し、中東情勢の緊張度は跳ね上がった。トランプ米大統領がさらなる攻撃を見送る意向を示し、全面衝突がひとまず回避されたタイミングを捉えて派遣を急いだようにみえる。

 両国の緊迫は続き、事態は流動化している。閣議決定時とは前提となる現地情勢が大きく変わっており、拙速な決断と言わざるをえない。必要性や根拠への疑義も拭えておらず、派遣自体を再考すべきだ。

 河野氏は発令後、「緊張が高まっているからこそ、必要な情報収集活動を強化しないといけない」と強調。中東に8割以上を頼る原油輸入確保のための派遣とした。

 確かに友好関係にあるイランにも配慮し、同国と接するホルムズ海峡やペルシャ湾での活動を避けて米国主導の有志連合には加わらない。だが、現地の収集情報は米軍と共有する方針で、一体的な活動として敵視される恐れがある。

 イランでは、司令官が殺害された上、経済制裁の強化で反米感情が過激化しかねない。イラクやシリアなどの親イラン武装勢力が米軍施設を攻撃する恐れもあり、中東全体に飛び火して派遣部隊が巻き込まれる懸念も拭えない。

 こうしたリスクや対応策の説明や議論は不十分だ。国会承認を必要としない防衛省設置法の「調査・研究」を根拠に、自衛隊を海外派遣するのは拡大解釈との指摘もある。通常国会前に一部出発させるのは批判封じだろう。

 政府は、不測の事態には自衛隊法に基づき武器使用が可能な海上警備行動に切り替えるとする。だが、武器を使って警護できる日本籍船は全関係船舶の1割程度だ。

 中東海域は重要なルートだが、海自の活動がどのように航行の安全に役立つかは未知数だ。米国の顔を立てる形とはいえ、実力部隊の派遣は関係船舶のリスクをかえって高めないか。

 安倍晋三首相は、きょうからサウジアラビアなど中東3カ国を歴訪する。「外交努力を尽くす」の言葉通り、米・イラン双方と関係良好な立場を維持しつつ、周辺国をはじめ国際社会と連携して緊張緩和を促すことが重要だ。