季節によって表情を変える自然豊かな山々に囲まれた中世木の里。前田さんは「この風景が移住する決め手になった」と語る(南丹市日吉町)

季節によって表情を変える自然豊かな山々に囲まれた中世木の里。前田さんは「この風景が移住する決め手になった」と語る(南丹市日吉町)

 森に囲まれた、車1台しか通れない入り組んだ細い道を進んでいく。視界が開ける。山に囲まれた田園風景が広がった。
 京都府南丹市日吉町中世木の牧山地区。現在の住民は、わずか3世帯6人。10年前は9世帯16人だった。
 草刈りや山の手入れといった共同作業は近隣地域に協力してもらっているが、集落は広く、作業が追いつかない。中川輝男さん(82)は「草刈りに追われて、これからどうなるのかわからん。人手が欲しい」とこぼす。自然豊かで、「牧山の松明(たいまつ)」などの伝統行事も残る、魅力ある古里への思いは深い。「先祖代々受け継いできた土地と伝統を守っていこうと必死なんや」
 「限界集落」。65歳以上の人口が50%を超える地域を指す。人口が減ることで集落の維持が難しくなり、存続が危ぶまれる。
 総務省の調査によると、2019年4月現在で、過疎法の指定地域などがある814市町村の6万3156集落のうち、限界集落の定義に当てはまるのは2万349と、32・2%に上る。丹波2市1町では15年4月時点で、南丹市の27集落、京丹波町の16集落が該当する。両市・町は、外部の人材を「地域おこし協力隊員」として採用したり、移住政策を進め、住民とともに地域の魅力発掘や人口減の食い止めを図る。
 その効果が現れてきたのが、一度は限界集落となった中世木地域だ。牧山では人口減が続くものの、地域全体では、16年に3組の家族が移住してきて、55歳以上が人口の半数を超える準限界集落の基準にまで回復した。
 背景には、棚田をひな壇に見立てた「中世木棚田ひな祭り」や、府絶滅危惧種のセツブンソウの群生地に焦点を当てた「せつぶん草まつり」を開くなど、住民主体で積極的にPR活動を展開してきたことがある。16年には、長く続けられる取り組みを考えていくため、幅広い世代による「中世木ビジョン委員会」も立ち上げた。特色を生かしたさまざまな催しに市内外から多くの人が訪れ、移住者も増え続けている。
 移住者の一人、前田敦子さん(43)は16年8月、京都府長岡京市から移ってきた。「中世木の面白そうな人たちと、山に囲まれた豊かな自然に引かれて」と振り返る。
 南丹市の地域起こし協力隊の1期生。15年9月から3年間で、峠道を歩くイベントなどに携わってきた。18年夏に協力隊員の任務を終えた後も、美山町自然文化村(京都府南丹市)のツアーガイドをしながら、耕作放棄地で黒豆やコメを育てたり、伝統行事を楽しんだりと、穏やかな暮らしを満喫している。
 地域の集まりや草刈りにも参加する。移住希望者でも、田舎暮らし特有の近所付き合いや自治会の決まり事などに不安を抱く人は少なくないが、前田さんは言い切る。「この場所が好きだからこそ、自然にできるんです」
 初めは協力隊員として、今は住民の一人として、さまざまな催しに携わってきた経験から、「代々地元の人だけでなく、この土地が好きで移住してきた人たちにも積極的に関わってもらえれば、次世代の地域の担い手になり得る」と感じている。
 新しい力も取り込みながら、古里の営みを未来へどうつないでいくか。ビジョン委員会代表の吉田辰男さん(67)は決意を語る。「何十年後も住み続けられる集落を目指したい。まずは、子どもたちの声があふれる“元快集落”にしていく」