高尾長良さん

高尾長良さん

新鋭の作家として注目を集める現役の京大生、高尾長良(ながら)さん(22)の2作目「影媛(かげひめ)」が刊行された。テーマに据えたのは日本書紀に登場する悲恋だ。わずかに記された挿話を想像力と大和言葉を駆使して独自に解釈し、繊細な心の揺れや命のきらめきに満ちた、みずみずしい愛の物語を紡いでいる。
高尾さんは京都大医学部5年生。史上最年少の19歳で新潮新人賞を受賞したデビュー作「肉骨茶(にくこつちゃ)」に続き、本作でも芥川賞の候補作となった。現代を生きる摂食障害の少女を描いた前作から一転、古代を舞台に選んだ。
「中学生のころから古事記や日本書紀の原文や対訳をよく読んでいました。好きなエピソードがたくさんありますが、とりわけ影媛は人物がとてもいきいきと描かれていて印象的でした」
日本書紀につづられている話とは-。皇太子は朝廷に仕える豪族の物部氏の娘・影媛に求婚していた。だが、影媛は物部氏と敵対する平群氏の跡取り息子、志毘(しび)と恋愛関係に。志毘と歌を詠み競った皇太子は2人の仲に気づき、志毘を殺害する…。
高尾さんは原文を何度も読むうちに、いくつか疑問を持った。一つは影媛のキャラクター設定だ。「運命に翻弄(ほんろう)されているだけなのに、志毘が亡くなった後から突然、主体性を持ち、歌を詠みます。影という文字はかつて、光という意味があったことにも興味を持ちました」
影媛の歌は二首あるが、そのうち、志毘の亡きがらに向かって絶唱した歌の内容にも注目した。
<あをによし 乃楽(なら)の谷(はさま)に 鹿(しし)じもの 水漬(みづ)く辺隠(へごも)り 水灌(みなそそ)く 志毘の若子(わくご)を 漁(あさ)り出(づ)な猪の子>
なぜ、志毘の亡きがらを倒れた鹿(しか)に例えたのか。影媛とはどんな人物で、志毘とどう出会い、恋に落ちたのか。書き進めながら想像を深めたという。
そして、影媛を神の声を聞く巫女(みこ)で、時には翠鳥(そにどり)(カワセミ)となって古代の森を縦横無尽に飛ぶという強さと繊細さを持ち合わせた女性に、志毘は山野を駆け回る鹿のように自由に生きたいと願い、情熱的で生命力あふれる男性としてつづった。
「現代の言葉だけでは表現できないことや形容がある」と、大和言葉で書いた。万葉集にもあたり、「咲(わら)う」「端正(きらきら)しい」などと表記。日本古来の言葉の豊かさにも気づかされる作品になった。
日頃は医療の勉強と執筆の両立の日々だが、4歳ごろから物語を書いていたため、創作活動は「ごく自然なこと」という。芥川賞に連続ノミネートされたことにありがたみを感じるとともに、「あるレベルのものを書くという目標を持った。それは日々の助けになります」と静かに語る。
次作も注目が集まるが、テーマも内容も「ヒミツです」。ちょっと照れたように笑った。新潮社刊・1512円。