「人生の節目で臆病になって、一人でぶつくさ考えてしまう。久高には、自分のそんな面を反映させた」と話す川越さん(京都市南区)

「人生の節目で臆病になって、一人でぶつくさ考えてしまう。久高には、自分のそんな面を反映させた」と話す川越さん(京都市南区)

 豊臣秀吉の朝鮮出兵や薩摩の琉球侵略に揺れる激動期の東アジアを舞台に、3人の男たちの生きざまを描いた長編小説「天地に燦(さん)たり」。本作で松本清張賞に輝き、デビューした京都市在住の川越宗一さんは「歴史に名が残らない、普通の人たちが、いかに生きたのか。自分が読みたいドラマを夢中で書いた」と語る。


 戦の中でしか生きるすべを知らない島津の侍大将、久高(ひさたか)。朝鮮の被差別民である白丁(はくてい)の身分にありながら、儒学を志す青年明鍾(めいしょう)。そして、琉球国のために尽力するクールで謎めいた若者真市(まいち)。出自も立場も異なる3人の視点が章ごとに入れ替わり、やがてそれぞれの運命が交差していく。「世界は一人の人間の主観だけではなく、いろんな主観が寄り集まって、その中間に立ち現れる」との考えだ。

 全体を貫く主題は儒学の「礼」。「人は、そのままでは禽(とり)や獣(けもの)と変わらない。礼を尽くし他者を敬愛して、はじめて人は人になる」。その捉え方は三者三様。久高は「天地には、禽獣の他に何者もおらぬか」と戦場に立ち続け、明鍾は「俺は人になりたい」と儒学を通して朝鮮社会に居場所を見つける。密偵として諸国を駆け回る真市は「誠を尽くせばなんとかなる」。

 終盤、琉球を制圧した久高に、あくまで「礼」を説く明鍾と真市。頭上には「守礼之邦」の扁額(へんがく)が掲げられ-。「家族旅行で沖縄に行った時、守礼門の扁額を見てふと思った。『礼』を軸に、薩摩、琉球、朝鮮という三つの国の物語が書けるのでは」

 バンド活動に明け暮れて大学を中退、就職も人より遅かった。

「もともと根性がなくて、長続きしない性格。だから、これほど情熱を注げるものに出会えたのは幸せ。ここに至ったのは、たまたまですが、『たまたま』っていいぞ、って言いたい。運命に翻弄(ほんろう)され続けた明鍾が象徴的。世界はそれだけ奥深く、多様性を受け入れる余地がある」。作品に込めたメッセージでもある。(「天地に燦たり」は文芸春秋・1620円)

  かわごえ・そういち 1978年大阪市生まれ。龍谷大文学部史学科中退。京都市北区在住。本作で25回松本清張賞。