京アニ社員が救助された状況のイメージ

京アニ社員が救助された状況のイメージ

 京都市伏見区の「京都アニメーション」第1スタジオの放火殺人事件で、近くにいた住民や作業員による救出劇の詳細な状況が当事者への取材で明らかになってきた。瞬時の判断で、工具やはしごを持ち出したことが奇跡的に社員たちの命を救っていた。


 スタジオ近くで駐車場の整備をしていた会社員の高橋龍児さん(39)や大川武志さん(58)らが火災に気付いたのは発生直後。高橋さんが現場へ行くと、3階の外壁にしがみつく男性社員の姿が見え、1階の女子トイレから「助けてください」と叫び声が聞こえた。急いで戻り「はしごや工具が要る」と同僚に叫んだ。
 現場近くで看板を設置していた別の会社の従業員田中政和さん(35)も煙を見て、スタジオに向かった。トイレ内の人影に気付き、窓越しに女性社員3人の姿が見えた。3人はトイレに逃げ込んでいたが、窓には格子があった。
 「何とかしますんで待ってください」。田中さんは落ち着かせるため声を掛けた。高橋さんが持ってきたバールを使って格子を壊し、同僚と3人を窓まで引き上げて脱出させた。
 続いて高橋さんや大川さんらは外壁にいた男性社員の救出に取りかかった。男性社員は3階の窓から外へ出たが、外壁にあったわずかに足を置ける突起部の上で動けなくなっていた。スペースの都合ではしごを掛けられる場所は少し離れていたが、大川さんは「何とか頑張って(はしごの場所まで)行きなさい」と呼び掛けた。
 社員は壁沿いを慎重に移動。高橋さんははしごの一番上に上ったが、高さが足りない。「絶対足をつかむから、信じて下りてこい」。雨どいを伝って下りてきた社員を、高橋さんは両手を伸ばして抱きかかえた。大川さんは「私たちは道具を持ち、高所にも慣れているのでたまたま役に立つことができた」と話す。
 近隣住民も連携して2階にいた社員の救出に当たった。80代男性は2階にベランダがあるのに気付いた。窓は閉まっていたが「逃げ出てくる人がいるかも」と考え、庭の手入れに使うはしごを自宅に取りに走った。ベランダに掛けるとほぼ同時に2階の窓が開き、黒煙とともに男性社員が姿を現した。
 社員ははしごに気付いて下り始めた。その間、男性は必死ではしごを支え続け、2人を助けた。飛び降りるのをためらっている女性社員にも、勇気を振り絞って飛ぶよう励ました。
 発生から18日で半年。男性は後日、はしごを使って助かった社員の家族が「命の恩人」を探していると耳にした。消防署から表彰も打診されたが、断った。「家族の気持ちは受け取った。助かったのならそれでいい。36人もの人が亡くなった大惨事のショックはきつい」。今は庭に置いてあるはしごは、すすで黒く変色したままだ。