物や人の間を指す「あわい」という言葉がある。肉だったか魚だったか、駆け出しのころある店で先輩に「骨とあわいの所、きわがうまいんや」と教えられた▼取材の眼目につながる話だったかもしれない。「熱源」で直木賞に選ばれた京都市在住の川越宗一さんが会見で「いろんな文化圏や人々の集団のあわい、そこで起こる葛藤やドラマを書きたい」と語っていて、ふと思い出した▼受賞作は帝国日本とロシア・ソ連の間で揺れる樺太(サハリン)を主舞台に、アイヌの若者やポーランド人流刑者らが文明や時代に翻弄(ほんろう)されながらも生きる姿を描く。史実にかぶりつくように熱いストーリーを紡ぎ出した▼芥川賞と比べて直木賞は、脂ののった中堅作家や時に大御所に贈られる印象がある。41歳ながらデビュー2作目での受賞は驚きだ。スケールの大きさとともに「若さ」ゆえの勢いが面白い▼「昔、この島は誰のものでもなかった」「そのころに帰りたいだけです」―。主人公たちの言葉にはっとさせられながら読んでいくと、現代も日々起きているさまざまな理不尽なことに思い至る。私たちも、なにがしかのあわいにいることに気付く▼「一人焼き肉」で気分転換するという川越さんが次にどんな話を生み出すのか。じっくり味わうのが今から楽しみだ。