抗生物質(抗菌薬)が効かない薬剤耐性菌が人類にとって深刻な脅威となりかねない。

 安易な抗菌薬使用を放置すれば、2050年に世界で年間1千万人が耐性菌によって死亡するとの予測もある。抗菌薬の使用削減といった対策を徹底すべきだ。

 耐性菌に起因して17年に国内で8千人以上が死亡したとの推計を、国立国際医療研究センター病院などの研究チームがまとめた。免疫力が落ちた人や高齢者が感染すると、重症化して死に至る恐れがある。耐性菌による死者数を全国規模で調べた研究は初めてで、深刻な実態が浮かび上がったといえる。

 細菌の増殖を抑える抗菌薬は肺炎などの感染症の治療に使われる。世界初の抗菌薬としてペニシリンが発見されて以来、多くの命を救ってきた。

  ところが、この薬が効かない耐性菌が増え、病院や介護施設などでの集団感染が後を絶たない。感染による死者が急増し、世界保健機関(WHO)は昨年、耐性菌拡大を新型インフルエンザ流行などとともに、特に注意を要する「国際保健への10の脅威」の一つに挙げたほどだ。

 耐性菌は薬を必要以上に使うことで細菌の遺伝子が変異し、薬への耐性を獲得する。より強力な薬を開発しても、それをしのぐ菌が現れる悪循環が起き、大半の抗菌薬が効かない「悪夢の細菌」とも呼ばれる新型多剤耐性菌も報告されている。

 耐性菌は薬で増殖を抑えるのが難しく、治療が困難となる。中耳炎や尿路感染症など以前は抗菌薬で簡単に治療できた病気が治りにくくなったとの報告も多い。治療の選択肢が狭まっているというから厄介だ。

 耐性菌拡大の背景には、抗菌薬に対する患者側の知識不足や不適切な服用と併せ、医師による過剰な処方が指摘される。

 例えば、大半がウイルス感染で起きる風邪に抗菌薬は効かない。インフルエンザも同様だ。だが内閣府の世論調査で、抗菌薬がウイルスには効かないと正しく理解している人はわずか37・8%にとどまった。

 「抗菌薬があれば安心」「念のために」といった理由で処方を求めることはやめるべきだ。さらに今でも風邪の患者らに漫然と抗菌薬を処方する医師が少なくないというから驚く。

 治療を受ける私たちも、量や期間で医師の指示を守らない不適切な服用が耐性菌の拡大につながると肝に銘じたい。症状が改善したからといって途中で服用をやめたり、量を減らしたりすると、細菌が耐性を獲得しやすい環境をつくってしまう可能性が高いからだ。

 政府は16年から耐性菌への知識を広め、不必要な抗菌薬使用を減らす対策を進めてきた。今年中に使用量を13年比で半減するとの目標を掲げ、少しずつ効果が表れつつある。

 医療だけでなく、家畜や養殖魚への抗菌薬の過剰投与で耐性菌が生まれ、これまでに家畜や食品、水、土壌からも見つかっている。動物や環境にも目を配った分野横断的な取り組みこそが耐性菌制圧の鍵となる。