「オンライン相談は前年の4倍のペースで増えている。ニーズはめちゃくちゃ大きい」と語る今井さん(大阪市中央区・D×P)

「オンライン相談は前年の4倍のペースで増えている。ニーズはめちゃくちゃ大きい」と語る今井さん(大阪市中央区・D×P)

こたつを囲み、談笑する定時制高校の生徒とD×Pの運営メンバー(京都市伏見区・伏見工業高)

こたつを囲み、談笑する定時制高校の生徒とD×Pの運営メンバー(京都市伏見区・伏見工業高)

 こたつが置かれた空き教室。高校生と社会人が膝をつき合わせる。「先週遅刻したとき怒られたぁ」「怒ってないよ。でも単位、やばいやん」。京都市伏見区の伏見工業高(定時制)。午後5時半の始業まで、ゆるやかな時間が流れる。
 認定NPO法人「D×P(ディーピー)」(大阪市)と京都市ユースサービス協会による生徒の居場所づくり事業。両団体の20~30代の運営メンバーが週1回常駐し、話し相手になったり、相談に乗ったりする。

■中傷や脅迫、殴られたことも

 D×Pは、定時制・通信制高校生を対象とした事業を関西や関東、札幌で展開している。理事長は今井紀明さん(34)=大阪市。2004年のイラク人質事件で当事者になった。劣化ウラン弾の被害調査で訪れたイラクで武装勢力に拘束され、帰国後、社会から大バッシングを受けた。「自己責任」「死ね」。中傷や脅迫の言葉を浴びせられ、街中で突然殴られた。事件後4~5年間、対人恐怖症になり、一時引きこもった。
 家族や友人の支えで徐々に社会復帰。若手社会人向けに夢を語り合うプログラムをするうち、不登校や経済的困窮などさまざまな生きづらさを抱える若者の姿が、かつての自分に重なった。「若者が自分の未来に希望を持てる社会を」。12年にD×Pを設立した。
 「親との関係がうまくいっていなかったり、先生からいい対応をされなかったり。大人への信頼は強烈に低い。まずは『大人と関わってもいいか』と思ってもらいたい」
 伏見工業高の森本浩行教諭(57)は「教員がなんぼ頑張っても難しいことがある。僕らのような評価者じゃない大人と気楽に話して、自分のことを考えるようになれば」と期待する。

■異なる意見切り捨てない

 D×Pは、社会人のボランティアらがつらかった経験や仕事について話す授業や進路相談も行う。若者や教員が信頼を深めるのが、D×Pが大切にする「否定しない」姿勢。今井さん自らが実践してきたことだ。
 事件後、批判の手紙が山ほど届いた。1年以上たって、手紙を書いた人たちを理解したいとの思いに駆られ、返信したり、会いに行ったりした。面と向かって30分ほど話を聞くと、相手が今井さんの話に耳を傾けるようになった。味方になってくれる人もいた。
 ネット空間の発達で同じ考えの者同士が気軽につながり、異なる意見を容易に攻撃し、自分の見たい情報以外から隔離される現代。「人をどうやって理解するのか。対話が一つの手法であり、化学反応を起こす。便利な社会になったから切り捨てるのではなく、泥臭くやっていくことが必要だと思う」

■社会復帰を支えたい

 いまは「三つ目の人生を生きている」という。18歳で事件に遭い、「ほぼ存在として消えた」。事件後の苦しんだ時期が二つ目。少しずつ前を向き、大学進学、大阪で就職、NPO設立へと続くのが三つ目。「僕は周りのサポートもあり、恵まれていた。それを偶然ではなく、セーフティーネットとしてつくりたい」
 ただ、自己肯定感を取り戻せたのはほんの1~2年ほど前だった。「本当に最近、ちょっとずつ自由に考えられるようになった。それだけ事件は強烈だった。18歳のときは行動しまくってたけど、いろんな苦しみを得て、他人のことをすごい考えるようになった。…ま、生きててよかった」
 昨年4月、15年ぶりにイラクを訪問した。前回は何もできなかったが、今回は難民キャンプを視察した。「つらい状況だが、それでも家族で支え合って、なんとかやっていこうとしていた」。翻って日本。「孤立させられていて、一緒にいられる人がいない。イラクと日本、どっちの状況がいい悪いじゃなくて、僕が集中しなきゃいけないのは日本の課題だなって感じた」


◎定時制・通信制高校生 

 文部科学省の学校基本調査(2019年度速報値)によると、高校卒業後に進学も就職もしない(パートやアルバイトなども未就職とする)のは全日制5.4%に対し、定時制23.7%、通信制38.3%と厳しい状況にある。通信制高校運営会社などでつくる「新しい学校の会」が14年に通信制高校生に行ったアンケートで「不登校の経験がある」と答えたのは59.2%に上った。きめ細かな支援が求められている。