観光客や市民が行き交うJR京都駅前で演説する候補者(20日午後5時38分、京都市下京区)

観光客や市民が行き交うJR京都駅前で演説する候補者(20日午後5時38分、京都市下京区)

  思いが伝わらない。焦りからか、本音が漏れた。

 「4年前は観光で京都は潤ったと評価された。今回は『観光公害や、公害や』と…」。京都市長選が告示された19日夜、中京区の演説会で現職門川大作(69)は苦渋の表情を浮かべた。

 2016年の市長選では「宿泊施設の増加」を公約に掲げた。訪日観光客の急増を見込んでのことだったが、客室数は予想以上に増えて飽和状態になった。この間、交通混雑や騒音などの「観光公害」が発生。門川は違法民泊対策や観光客の分散化を進めたが、中心部は宿泊施設の林立による地価高騰のあおりでオフィスや住居が確保しにくくなり、観光政策はまちの行方を左右する課題となった。

 「観光振興で京都経済を発展させた」と門川は自負する。しかし、市長選に向けた立候補の動きが表面化してきた昨年秋以降、他候補が観光公害の争点化を仕掛け、門川も動く。告示2週間前、客室のバリアフリー基準強化による事実上の進出抑制策を打ち出した。
 観光公害が深刻な東山区選出の国民民主党市議中野洋一(50)は19日、JR京都駅前の演説で「市の腰は重かった」と対応の遅れを認めつつ、「問題を解決できるのは門川さんだけ」と実行力を強調した。
 

 「ホテルの建設が京都の風情を壊す。許せない」。19日夜に左京区であった新人福山和人(58)の演説会。国指定名勝・無鄰菴(むりんあん)近くのホテル建設に反対する市民グループの共同代表を務める東村美紀子(72)が批判した。演説会の後、福山は真っ先に東村と握手を交わした。
 過去3回の市長選は門川に1票を投じたという東村は、住み慣れた地域の景観がホテル建設で阻害されることを知り、市議会の各会派や市役所に通い、接点を持った福山の応援を決めた。選対幹部は「政治とは距離を置いていても、市の観光政策は不満だという市民に、演説会の弁士を依頼している」と戦略を描く。
 福山は告示前から各地の演説で「京都のまちが、京都でなくなってしまう」と訴えている。宿泊施設の客室に対する「総量規制」を公約に掲げるなど観光公害を大きな争点と位置づける。世界遺産仁和寺(右京区)前の高級ホテル計画反対に力を入れ、「門川さんが市長の権限を使って認めようとし、もう1人の候補も賛成している。止められるのは私だけだ」と違いを強調している。
 

 「市バスの観光路線と生活路線を完全に分離する」。新人村山祥栄(41)は20日、訪日観光客や買い物客でにぎわう京都駅前で、バス停に並ぶ人たちにアピールした。
 村山も宿泊施設の総量規制など観光公害対策を重視する。昨年12月には関連本を出版した。その手法は初挑戦した12年前の市長選と重なる。当時は市の「同和行政」をやり玉に挙げた。
 ただ、村山は観光振興にも重きを置く。12月に配布したビラでは市民の不満を解消した後に観光客数6千万人を目指すとして独自色を出した。念頭にあるのは周辺部など観光客誘致に前向きな地域の存在だ。市の観光政策に不満を持つ層とそうでない層にアピールする「両にらみ」(選対)で支持拡大を狙っていた。
 だが、「観光公害を問題視していないと誤解される」(選対)との懸念から、告示後は振興策に触れていない。門川と福山が積極的に使わない「観光公害」を連呼し、現市政への批判票を取り込もうとしている。四条河原町で市バス対策の訴えを聞いた介護職の女性(49)=左京区=は「混雑で高齢の母は買い物に行きにくくなった」と納得した様子で拍手を送っていた。=敬称略
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 「3極対決」で激しい競り合いが始まった京都市長選。争点の現場から論戦を伝える。