ロシアのメドベージェフ首相が北方領土の択捉島を訪問した。日本政府の訪問中止要請を無視しての強行である。

 日ロ両政府は、安倍晋三首相とプーチン大統領が直接会談を行い、北方領土の帰属問題を含む平和条約の締結交渉を続けている。

 その一方で、政権ナンバー2のメドベージェフ氏が訪島し実効支配を誇示した。

 ロシア政府に平和条約を締結する意思があるのか、日ロ交渉の内実を疑わざるをえない。

 昨年11月、安倍氏とプーチン氏は日ソ共同宣言(1956年)に基づく平和条約交渉を加速させることで合意した。

 両氏は今年6月の20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせた首脳会談でも条約締結に向けた意思を確認したばかりだ。

 あの約束は何だったのか。

 メドベージェフ氏は過去に3回、択捉島を訪問していたが、日本がロシアに8項目の経済協力を提案した2016年5月の首脳会談以後はしていなかった。

 一方でロシアは4島の経済開発を強化してきた。メドベージェフ氏は択捉島の水産加工場などを訪れた。その上で、「ここはサハリン州に属している。何を心配することがあるのか」などと述べた。

 強気の発言からは、交渉が順調に進まない中、領土問題で揺るがない姿勢を示す意図が伝わる。

 理解に苦しむのは、日本政府の対応である。

 河野太郎外相は「日本国民の感情を傷つけるものであり、極めて遺憾だ」とする談話を発表した。

 しかし、「北方四島は日本固有の領土」、現状はロシアによる「不法占拠」という日本政府の従来の立場を表明しなかった。

 安倍政権は平和条約交渉の開始以後、こうした事実に言及していない。腰が引けた対応が今回の事態を招いた一因ではないのか。

 旧ソ連軍の侵攻で北方四島から日本人が追われたのは、1945年の8月からだった。その季節に合わせたような今回の訪問は挑発にも映る。

 安倍政権はこの間、方針の変更について国民にほとんど説明していない。国会での野党質問にも首相や外相は「交渉中」を理由に答えようとしない。

 手の内を全て明かせ、とはいわないが、最低限の説明責任を果たす必要は、あるのではないか。

 9月にはロシア極東・ウラジオストクで日ロ首脳会談が予定されている。成果があがるのか、不安になる。