戦時中、犬が供出される場面を目撃した原さん。動物好きで今も猫やウコッケイを飼っており、「命を粗末にする戦争は残酷」と話す(京都市伏見区)

戦時中、犬が供出される場面を目撃した原さん。動物好きで今も猫やウコッケイを飼っており、「命を粗末にする戦争は残酷」と話す(京都市伏見区)

 戦時中、命を奪われたのは人間だけではなかった。京都府の旧木津町(現木津川市)で飼い犬が供出される様子を目撃した京都市の女性が、当時の記憶を初めて手紙にしたためて木津川市に寄せた。毛皮や食肉としての利用、狂犬病の流行防止のため、戦争末期にはペットの供出が各地で行われたとされる。女性は幼心に焼き付いた異様な雰囲気を鮮明に覚えており、「命を粗末にする戦争は残酷」と憤る。手紙は木津川市役所で6日から始まる「平和パネル展」で紹介する。

■「今日は犬の供出をしたはるの」

 京都市伏見区の原悦子さん(78)。父が木津警察署に勤めており、署の敷地にある官舎で暮らしていた昭和19(1944)年春、犬の鳴き声が耳に届いた。

 「なんで鳴いているの」。傍らで縫い物をしている母に尋ねると、顔も上げずに「今日は犬の供出をしたはるの」。意味が分からず、戸を開けてのぞくと、たくさんの犬が箱に入れられたり、建物の柱にくくりつけられたりしていた。

 そこへ、子犬3、4匹と親犬を乗せたリヤカーを若い女性が引いてきて、さっと置いて立ち去るのを見た。「きれいな女性だった。でも無表情で、彫刻のように硬い雰囲気のシルエットを今でも覚えている」

 その後、家族で犬の供出が話題に上ることもなかったが昨年、インターネットで偶然、北海道で動物の供出があったとの情報を目にした。2人の姉に自身の記憶を話すと、姉たちも、大人が犬を建物の後ろへ引っ張っていくのを見ていて「子どもが見るものじゃない」と怒られたこと、建物の裏で犬が撲殺されるのを目撃したことを話してくれた。

 国立公文書館アジア歴史資料センター(東京都)のホームページ「アジ歴グロッサリー」によると、1944年、軍需省と厚生省から全国の地方長官(知事)へ出された通知に基づき、軍用犬や警察犬などを除いた犬を献納もしくは供出することになった。狂犬病の流行を防ぐ目的もあり、一部は毛皮や食肉に加工されたが、多くは利用されること無く廃棄されたといわれているという。

 原さんは昔から動物好きで、現在は猫9匹、ウコッケイ4羽と暮らす。犬を供出した女性の様子を思い返し「反対すれば非国民と思われかねない。感情を押し殺していたのでは」と心情を推し量る。「みなさんの記憶にとどめておかないと、と思って手紙を書いた。戦争を知らない世代も、戦争について知ろうとしてもらいたい」と話す。

 平和パネル展は6~13日の午前9時~午後5時。入場無料、土日休み。